外国人患者とは?|基本分類と場面ごとの対応のポイントを解説!
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2024.06.12
外国人患者
「外国人患者」と一口に言っても様々な方がおり、それぞれの特徴に合わせた対応をすることが重要です。
本記事では「外国人患者」の3分類を紹介し、さらに3分類ごと・場面ごとの対応のポイントについて解説していきます。
「外国人患者」の基本の分類
「外国人」と一口に言っても、その属性や背景は実にさまざまで一括りにすることはできません。多種多様な「外国人患者」を整理するために、基本の分類について説明します。
「外国人患者」は主に3種類に分類されます。分類方法を以下の表に表しました。
在留外国人とは、日本に90 日を超えて住んでいる外国人のことを指し、訪日外国人とは旅行やビジネスなどで短期的に日本に訪れている外国人のことを指します。また、渡航患者とは、治療を目的に来日している外国人患者さんのことを表しています。
在留外国人の推移
在留外国人数の2012年から2023年の推移を以下のグラフに示しました。
グラフを見ると、在留外国人の数は2012年から2019年まで右肩上がりに増加していたことがわかります。コロナ禍の期間で一度在留外国人の数は減少しましたが、新型コロナウイルス感染症流行の影響緩和に伴い、再び増加。2023年末の在留外国人数は、341万992人(前年末比33万5,779人、10.9%増)で、過去最高を更新しました。
1990年代まで「在留外国人」の多くは、中国・韓国などの近隣国の出身の人や、ブラジル出身の人たちでした。しかし、2000年代に入り、ベトナムやネパールなどの国から留学生(日本語学校を含む)・研修生・技能実習生などとして多くの人が来日しています。この最近増加している東南アジアや南アジア出身の在留外国人の多くは、数ヶ月から3年程度の期間滞在し、同じ国出身の人たちのコミュニティの中で生活しています。そのため仕事に関わること以外の日本語があまり話せないこともあり、また経済的に困窮している場合もあります。
政府が特定技能2号の対象を拡大するなど外国人労働者の受入れを継続する方針であることを踏まえると、在留外国人数の増加傾向は今後も続くでしょう。
訪日外国人の推移
2011年から2023年までの訪日外国人数の推移を以下のグラフに示しました。
日本政府観光局(JNTO)の2024年1月の発表によれば、2023年の訪日外国人数は2500万人を突破し、コロナ禍前である2019年の約8割を記録しました。訪日外国人観光客数は、コロナ禍の落ち込みから回復傾向にあるとわかります。
渡航患者の推移
治療などを受けることを目的として訪日する外国人患者さんやその同伴者に対し発給されるのが、医療滞在ビザです。医療滞在ビザの発給数の推移を以下のグラフで表しました。
医療滞在ビザの発給には、費用も手続き上の手間などもかかるため、渡航受診者のうち医療滞在ビザで来日する人は非常に限られていると言われています。実際には観光・商用など他のビザで来日し、治療や健診などを受けて帰国するケースが多く、渡航受診者の数は発給数よりもかなり多いと考えられます。そのため、医療滞在ビザの発給数については実数よりもその推移が、現状を把握するための参考になります。
上記のグラフからは治療目的で来日する外国人数がコロナ禍で落ち込んだものの回復傾向だと示唆されます。2023年には、日本政府は「新時代のインバウンド拡大アクションプラン」を決定し、その中には医療ツーリズムも取り組みの対象として含まれています。医療滞在ビザの発給数の推移や政府の発表を踏まえると、渡航患者数すなわち治療・健診目的で来日する外国人数は今後も増加していくでしょう。
【分類別】外国人患者さん対応のポイント
外国人患者さんは、先述の通り、在留外国人患者・訪日外国人患者・渡航患者の3種類に分けられます。それぞれの種類の患者さんの特徴や対応の際のポイントについて解説します。
在留外国人の患者さんの対応のポイント
在留外国人の患者さんの種類は、さらに4つに分類することができます。
ビザの種類 | 具体例 | 日本の公的保険加入 | 身分確認書類 |
90日を超える滞在資格 | 定住者・日本人の配偶者・留学生・技能実習生・研修生・労働者 | 〇 | 在留カード |
在留米軍 | 米国軍人やその家族 | × | CACカード等 |
外交・公用 | 大使館員 | × | 外交官身分証明票、パスポートなど |
滞在資格なし | 不法滞在者 | × | ーー |
在留外国人のほとんどが90日を超える滞在資格を持ち、公的保険に加入しています。
アメリカ軍基地や大使館などの在外公館が近くにあるような医療機関では、その関係者が来院することもあるでしょう。
在留米軍の患者さんについては、米軍医療機関の紹介のある現役の軍人や家族は、米軍保険による保険償還が受けられます。駐在期間が短い場合もあり、医療計画を立てる場合には確認が重要です。また、重症の場合は原則として本国の病院に搬送されます。
大使館員やその家族の患者さんは、日本の公的保険に未加入のため自由診療です。また、滞在期間の制約が少なく、治療計画の制限は少ないでしょう。
ビザが切れているなど、不法滞在となっている患者さんについても公的保険の加入がなく自由診療となります。経済的に困窮しているケースがほとんどとなり、対応が困難になりやすいです。出入国在留管理庁との連携が発生することも少なくありません。
言葉の壁・文化の壁について
在留外国人の患者さんは、基本的に公的保険に加入しているため、日本語を話して日本の医療制度・習慣に理解がある場合、日本人患者さんと対応はほとんど変わりません。一方で、数か月から3年程度の期間の滞在である外国人の増加により、日本人患者さんと同様の対応ではうまくいかないケースも増加しています。
出入国在留管理庁の令和3年度の「在留外国人に対する基礎調査報告書」を元に、在留外国人患者さんが病院で診察・治療を受ける際の困りごとに対する回答の一部を以下のグラフに示しました。
グラフによれば、回答者の21.8%が「病院で症状を正確に伝えられなかった」、12.9%が「診断結果や治療方法がわからなかった」、10.2%が「病院での手続きが分からなかった」と回答しています。
つまり、在留外国人の患者さんは、医療的な会話になると十分に意思疎通できない可能性があると分かります。また日本の医療制度・習慣を理解していないこともあります。
また、在留外国人が医療機関において言葉の問題にどのように対応しているのかを示したグラフは以下になります。
調査に回答した在留外国人の45%が病院のコミュニケーションにおいて「日本語が理解できるので困らなかった」と回答しています。裏を返せば、半数以上の在留外国人が病院を受診する際に言語において問題を抱えています。また、家族や知人通訳の利用が多いことも分かります。
しかし、家族通訳や知人通訳には、様々なリスクがあります。厚生労働省の「外国人患者の受入れのための医療機関向けマニュアル」では診察や、治療結果・治療方針を伝える場などでは医療通訳者としてのトレーニングを受けた医療通訳者に依頼することを推奨しています。
それ以外の場面においても、日本語が話せる・日本語を話せる人を連れてきたということだけで安心せず、本人あるいは同伴した家族や友人などの日本語能力や日本の医療に対する理解を見極めることが対応する上で重要です。
家族・知人通訳のリスクについては、以下の資料で詳しく解説しております。ぜひご活用ください。
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保険証の確認について
在留外国人の中には公的保険に加入していない人もいます。令和3年度「医療機関における外国人患者受入れに係る実態調査」によれば、令和3年9月の1か月間で外国人患者さんを受け入れたと回答した医療機関のうち約32%の789の医療機関が、公的医療保険未加入の在留外国人の患者さんを受け入れたことがあると回答しています。また、1医療機関あたりでは約14人の公的医療保険未加入の在留外国人の患者さんを受け入れたことも分かっています。
また、日本の医療保険制度があまりよく理解できておらず、保険証が気軽に貸し借りをされているようなケースも報告されています。そのため、保険証単体での確認だけでなく、マイナンバーカードや在留カードなど、写真付きの身分証明証も合わせて確認することが重要です。
訪日外国人の患者さんの対応のポイント
訪日外国人の患者さんは日本語を話さないことがほとんどであるため、医療通訳や翻訳機器の利用がより重要です。さらに、日本の医療制度や医療文化などについて無知である場合も多く、対応が必要になります。
訪日外国人は救急で運ばれることが多いのも特徴です。予期しない来院対応のために、遠隔の電話医療通訳など時間を選ばない通訳方法を選択することも有効です。
電話医療通訳については以下の記事で詳しく解説しております。ぜひご活用ください。
また、訪日外国人患者さんは自由診療のため、医療費未払いが発生した際の1件あたりの未払い額が大きくなります。
以下は、令和3年度「医療機関における外国人患者受入れに係る実態調査」より、外国人患者1人当たりの未収金額を外来と入院別に表したグラフになります。
特に医療費が大きい入院の場合、在留外国人の患者さんと訪日外国人の患者さんで金額の差が極めて大きいと分かります。訪日外国人の患者さんのほうが全体的な数が少ないケースがほとんどですが、一人当たりの額が大きい傾向にあり、1件でも発生すると影響が大きくなりやすいのが特徴です。近年は、外国人観光客が一部の有名観光地だけでなく、地方に分散しています。どこの地域の医療機関でも突然の来院がある可能性があるため、十分な対策が重要です。
外国人患者さんの未収金の対策方法については、対策をとることで大きく減らせることが先進医療機関の事例から分かっています。以下の資料で対策方法を解説しましたので、ぜひご活用ください。
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渡航患者さんの対応のポイント
渡航患者さんは日本の公的医療保険に加入していないため、自由診療となります。医療滞在ビザを取得する場合には身元保証機関により一定の経済力が保証され、また、ほとんどの場合、支払いも前払いとなるため、医療費の未払いのリスクは少ないでしょう。
一方で、上述した通り、渡航患者と言えるケースの多くが、医療滞在ビザ以外の短期滞在ビザ(観光・商用など)で入国して受診しているのが実態です。そのため、渡航患者であるから支払いは安心とは必ずしも言えないことには注意が必要です。
また、渡航患者さんは日本語を話せない人が多く、医療通訳の準備が重要です。医療滞在ビザの場合は、身元保証機関等から医療通訳が提供されることが多いですが、その他のビザの場合はついてくる通訳が医療通訳ではないなども少なくありませんので、医療機関側での備えが重要です。
医療滞在ビザについては以下の記事で解説しております。ぜひご活用ください。
【場面別】外国人患者対応のポイント(関連記事紹介)
次に、外国人患者さんの対応に関して、場面別のポイントを紹介します。同時に、それぞれの詳細を解説した記事をご紹介していきます。
外国人患者さんの受付・会計をする場合
言葉・文化の壁
受付・会計では、定型的で簡単なコミュニケーションの場合は機械翻訳や指さしツールが有効です。もしコミュニケーションがうまくいかない・込み入った話をする場合には、通訳サービスを利用すると良いでしょう。
また、医療制度や会計までの流れなどを受付時点で説明することで、トラブルを回避できるでしょう。
未収金対策
在留外国人患者さん・訪日外国人患者さんに限らず、本人確認は重要です。また、在留外国人患者さんの場合には保険証とマイナンバーカードや在留カードの確認、訪日外国人患者さんの場合にはパスポートの提示依頼や旅行保険の加入有無や支払い方法の種類を確認すること、事前の概算金額を伝えた上で治療を開始することなどが重要です。
外国人患者さんの来院時、受付で確認するべき事項については、以下の記事でまとめております。ぜひご活用ください。
外国人患者さんが入院する場合
外国人患者さんが入院する際には、面会文化や、日々の宗教的習慣、食事文化の違いなど、様々な違いに対応していくことが重要になります。また、対応の際、医療通訳を含めた言語ツールを上手く活用していくことも重要になります。
外国人患者さんが入院した際の対応方法については以下の記事で詳しく解説しております。ぜひご活用ください。
外国人患者さんに治療・手術をおこなう場合
外国人患者さんを治療・手術する際にもポイントがあります。例えばインフォームドコンセントの方法やとらえ方には、欧米と日本で違いがあります。また、宗教的に選択できない治療方針がある可能性もあります。治療の際も、痛みのとらえ方の違いや、宗教的に避けたほうが良い行為などに配慮した対応が重要です。
日本人の患者さんも同様ではありますが、外国人患者さんと一口で言っても個人で考え方は異なるため、患者さん個人の意向を確認しながら進めるとよいでしょう。
外国人患者さんを手術する際の対応のポイントについては以下の記事で詳しく解説しております。ぜひご活用ください。
外国人患者受入れ体制整備のポイント(関連記事紹介)
上述したように、今後も外国人患者は増加の一途を辿ることが予想されています。
また、一部の都市部や有名観光地だけではなく、地方にも外国人労働者や観光客が急激に増加しているため、これまで外国人患者の数が少なかった医療機関も、今後増加する可能性があります。
来院数が増えると、その場の対応だけでは大きな混乱が生じる可能性があるため、組織としての体制整備が必要不可欠になってきます。
以下では、外国人患者受入れ体制の整備のポイント5点とそれぞれに関する参考記事をまとめました。
1. 外国人患者受入れ状況の把握、方針の策定
まず、受入れ体制を整備する際におこなう必要があるのが、外国人患者さんの来院数の把握です。正確なデータを収集できているケースは多くないため、期間を定めて仮集計をしてみる、あるいは、受付担当者等へのヒアリングをして少なくとも時間内外でどの程度の頻度での外国人患者の来院があるのかを確認すると良いでしょう。
また、日本に住んでいて保険証を持っている人か旅行客か、どこの国の人か何語を話す人かなどもできる範囲で調査を進めましょう。
調査をもとに、どのような対策が必要かを検討することが重要です。
外国人患者さんが多い病院の受入れ体制については、以下の記事で解説しております。ぜひご活用ください。
【補足】認証の取得
外国人患者受入れ体制を本格的に整備する際は、認証の取得も検討すると良いでしょう。
外国人患者受入れ体制の整備状況を評価する認証制度の代表的なものに、一般財団法人日本医療教育財団を実施主体とする「外国人患者受入れ医療機関認証制度」(Japan Medical Service Accreditation for International Patients:以下JMIP)があります。JMIPは、外国人患者の方が安心・安全に医療サービスを享受できるようにするために2011年に創設され、現在66の医療機関が認証を取得しています。
JMIPの評価基準や取得のメリットなどを解説した記事は以下になります。ぜひご活用ください。
2. 多言語対応
外国人患者さんの対応の円滑化のために、多言語化が重要です。
医療機関における多言語化は、主に医療通訳や機械翻訳といった通訳ツールを導入すること、院内資料や案内表示の翻訳をおこなうことの2点があります。
医療通訳や案内表示の翻訳の検討方法については以下の記事で解説しております。ぜひご活用ください。
3. 支払いの支援
特に観光客などの訪日外国人については、日本と海外では医療制度や会計までの流れが大きく異なることが要因で、外国人患者さんに支払う意思・支払う能力があるにも関わらず未払いになってしまうケースが発生しがちです。こうした未払いは、対策を講じることで、金額を減らせることが先進医療機関の事例で明らかになっています。
外国人患者さんの医療費の未払いを防止するためには、
・本人確認として、パスポートや在留カード等の確認、さらに加入保険の確認をおこなう
・診療費の概算提示を事前におこなう
・クレジットカード・バーコード決済などのキャッシュレス支払いに対応する
などがあります。
以下の記事で外国人患者さんの医療費未払いを防ぐための対策をまとめましたので、ぜひご活用ください。
4. 感染症対策
外国人患者さんに限らず、海外の滞在歴がある日本人患者さんでも同様ですが、海外との人の行き来が増えると、日本では近年流行のなかった病気や新型ウイルスに罹患した患者さんが来院する可能性が増えます。特に日本には、中国や東南アジア・南アジアなど、日本で蔓延していない感染症が流行している国からの入国者が増えています。
感染症は日頃の院内安全管理においても重要な項目です。外国出身の方や直近の渡航歴がある方を想定した見直しをおこない、常に対策が十分な状態にしておくとよいでしょう。
感染症対策については、以下の記事で解説しておりますので、ぜひご活用ください。
5. 海外在住者(訪日外国人)の診療価格の検討
公的保険加入していない外国人患者さんは自由診療となるので、その診療価格は医療機関で自由に設定することができます。
外国人観光客の増加に伴い、公的保険に加入していない海外在住者の診療価格について、通常の自費診療1点10円より高く設定する医療機関が増加しています。外国人患者受入れが多い医療機関では1点20円以上の設定の医療機関の割合が高いことも厚生労働省の調査などで報告されています。
厚生労働省は、『外国人患者の受入れのための医療機関向けマニュアル』において以下のように記載しています。
外国人患者の受入れを円滑に行うためには一定の費用をかけて通訳体制や院内環境を整備する必要があります。また、特に訪日外国人旅行者患者の場合には、(中略)保険会社や医療アシスタンス会社とのやり取りなど、公的医療保険の対象の患者では生じないような事務的・時間的負担が発生します。 そのため、自院において外国人患者の受入れ体制を整備し、経営的にも安定してその体制を維持していくためには、その費用等をきちんと反映した診療価格を設定し、訪日外国人旅行者患者等に対してはその設定された診療価格に基づいて医療費を請求していくことも検討が必要です。 引用:厚生労働省「外国人患者の受入れのための医療機関向けマニュアル」 |
受け入れる際に必要な通訳や翻訳、海外とのやりとりなどのコストを踏まえて、診療価格の医療費の設定を検討するとよいでしょう。
外国人患者さんの診療価格の設定については以下の記事で解説しましたので、ぜひご活用ください。
外国人患者の分類を理解して受入れ準備をし、安心・安全な外国人患者受入れを
本記事では、まず外国人患者さんの3分類とその分類ごとの特徴や対応のポイントについて解説しました。さらに、外国人患者さんの場面ごとの対応方法や受入れ体制整備の方法についても本メディアの記事を紹介しました。
外国人患者さんの受入れのためにやるべきことがたくさんあるように感じられるかもしれませんが、重要なのは自院に合わせた対応や体制整備をおこなうことです。
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