医療ツーリズムの市場規模|世界・日本で注目を集める理由を解説

  • 2024.10.08

    医療ツーリズム

医療ツーリズム(メディカルツーリズム)は日本だけではなく世界中で注目を集め、市場規模は拡大しています。

医療ツーリズムが注目されている世界・日本それぞれの背景や日本の医療の強みを解説し、医療ツーリズムの今後を展望します。

医療ツーリズム(メディカルツーリズム、医療観光)とは

医療ツーリズムとは、医療や健康サービスを受けるために国外に渡航することです。「メディカルツーリズム」、「医療観光」などの言葉で言い換えられます。ツーリズム・観光とつきますが、必ずしも観光を含むわけではありません。

医療ツーリズムは、現在グローバル化の進展や医療技術の発展などにより世界的に注目が高まり、市場規模も大きく成長しています。本記事では、医療ツーリズムの市場規模や海外・日本の状況を解説していきます。

医療ツーリズムの市場規模

医療ツーリズムは、アジアの特にタイやシンガポールなどでも受け入れが積極的に行われています。

世界全体では2028年までに48兆円の市場規模!?

海外のリサーチ会社による医療ツーリズムの2022年の市場規模と2028年の市場規模予想を以下に示しました。

医療ツーリズムの市場規模
市場調査レポート: 医療ツーリズム市場:世界の産業動向、シェア、規模、成長、機会、2023-2028年予測 より作成

世界全体の医療ツーリズムの市場規模は約14兆円で、2028年には3倍以上となる約48兆円にまで拡大すると試算されています。

また、メディカルツーリズム協会(MTA)は、毎年1,400万人が医療ツーリズムで国外に渡航すると推定しています。

日本の医療ツーリズムの経済効果は2,800億円

古い資料ですが、2012年に日本政策投資銀行が発表した試算では、2020年の潜在的な市場規模は約5,500億円、2020年における経済効果は約2,800億円とされています。

しかし、上記の数字は”潜在的”な市場規模であり、達成のためには医療機関・国・仲介業者などが医療ツーリズムを受入れるための取り組みが必要です。

世界で医療ツーリズムの市場規模が拡大している理由

世界で医療ツーリズムが拡大している要因は様々です。

下のグラフは、国ごとの死因割合について示したグラフです。

各国の死因割合
国際連合(UN)|Demographic Yearbook 2017, 2021 より作成

グラフによれば、日本や欧米などの先進国に比べて、途上国は悪性新生物、すなわち癌の死者数が少ないことが分かります。

基本的に、経済成長すればするほど感染症を原因とした死が減り、平均寿命が延び、癌や生活習慣病を背景とした疾患により亡くなる人の数が増えます。

以下は、糖尿病患者数の推移と予測について示したグラフです。

糖尿病患者数の推移と予測(各地域別)
国際糖尿病連合(IDF) Diabetes estimates (20-79 y): People with diabetes, in 1,000sより作成

以上のグラフを見ると、世界全体で糖尿病患者の数が増加しており、その傾向は今後も続くと推計されていることが分かります。

感染症ではなく、生活習慣病を背景とした疾患が増えてくることで、人々の関心は予防医療やがん治療などに向くようになるでしょう。その結果、経済成長はしているが、自国の医療レベルはまだ十分ではない国を中心に、観光と合わせて高度な健康診断や治療を受けるために海外に行く人が増えると想定されています。

世界全体で医療ツーリズムの市場規模が拡大している理由の一つを紹介しました。ほかにも、美容整形を目的とした医療ツーリズムも増加していますし、また医療技術の発展なども背景にあると言われています。

日本の医療ツーリズムにおける強み

医療ツーリズムの需要が世界で高まってきていることを解説してきました。では日本が医療ツーリズムを受入れるうえで、強みとなる点について解説していきます。

平均医療の水準の高さ

まず第一に、平均的な医療水準の高さが挙げられるでしょう。日本の平均寿命は世界と比較しても高いレベルにあります。以下は厚生労働省の資料から作成した各国の平均寿命の推移です。

各国の平均寿命の推移(男女別)
厚生労働省|人口動態調査より作成

日本は男女ともに平均寿命が長く、特に女性の平均寿命はほかの先進諸国より軒並み長いことがわかります。これは、高い医療技術が多くの人に平等にアクセスできる状況であることが背景にあります。

例えば、アメリカでは最先端の医療を受けることができますが、保険制度が手厚くないため、医療費を支払える財力のある国民しか高度な医療を受けることができません。またヨーロッパでは皆保険制度が進んでいますが、実際の医療にたどり着くには数か月の時間を要することもあります。

つまり、日本と同様に高い医療技術を持つ国もありますが、患者さんの財力に関係なく高い医療技術をスピーディーに提供できる国内環境が日本には整っています。確固とした医療基盤があるため、海外から来日した患者さんに対しても、スピーディーに質が高い医療が提供できます。海外の患者さんはそこに価値を感じて、一定の費用をかけてでも日本で医療を受けたいと考える可能性が高いのです。

医療資源の豊富さ

日本は、病床数やCT・MRIといった医療資源も豊富に保有しています。

以下は、人口1,000人当たりの急性期病床数とリハビリ病床数を、精神病床を除いて合計した数値です。なお、日本は急性期の病床数とリハビリ病床数の区別がされずに集計されています。

人口1,000人当たりの急性期病床数とリハビリ病床数の合計
OECD Statistics 2021 より作成

以上のグラフを見ると、日本がもっとも1,000人あたりの病床数が多いことがわかります。また、日本は精神病床が多いことで知られており、精神病床も入れると日本の人口1,000人あたりの病床数は12を超えます。ドイツは7.8床、アメリカは2.8床であり、日本の病床数は非常に多いです。

また、以下は人口100万人あたりのCTとMRIの台数です。

人口100万人あたりのCT/MRIの台数(OECD諸国)
OECD Statistics 2020 より作成

日本は世界と比較してCTやMRIの保有台数で抜きんでています。こうした医療資源の豊富さが、高度な医療サービスを高スピードかつ広範に提供することを可能にしています。

患者中心でホスピタリティのある医療の提供

観光庁の「医療観光・医療の国際化に関する関係省庁連携について」によれば、医療観光の将来のイメージとして、「日本独自のホスピタリティ&観光ノウハウによる高付加価値化」ということが記載されています。
また、Medical Excellence Japanの作成した「日本における医療の強み ガイダンス」によれば、日本の医療の強みとして、患者中心を行動原理にした『チーム医療』が挙げられています。「医療スタッフ一人ひとりが、私のことを気にかけてくれている。私の『病気』を見ているのではなく、私そのものを見てくれていると感じるのです」といった声が日本で治療を受けた外国人患者さんからあがっているとも紹介されています。


日本国内だけを見ていると、日本の医療のホスピタリティの良さを実感することはあまりないかもしれませんが、他の国と比較するとよく分かるでしょう。
例えば、世界銀行のデータによれば、2018年時点で中国は人口10万人あたりの医師数が210人と日本の250人に比べて40人ほど少なく、1人の医師が一日で150人もの患者を診ているとも言われています。さらに、看護師・助産師は人口10万人あたりで日本が1,150人いるのに対して、中国は250人と極めて少ないのが現状です。そのため、中国では一人の患者さんに対して時間をかけられず、きめ細やかな対応を期待することが難しいのです。

以上のような中国の状況なども踏まえると、患者さんのことを考えてきめ細やかな対応ができることが日本の医療の強みとなると言えるでしょう。

日本で医療ツーリズムが注目されている背景

日本で医療ツーリズムが注目されている背景には、世界規模で市場規模が拡大していること以外にも様々な事情があります。

地方活性化が期待できること

日本では少子高齢化を背景に、地方の過疎化・高齢化が深刻な問題となっています。若者が少ないために新たな産業が生まれず、そのために人口が流入しないという負のサイクルがある中で、観光業に注目が集まっています。そこで、医療と観光を組み合わせた「医療ツーリズム」にも着目されています。

例えば、厚生労働省は観光庁と連携して地域の医療・観光資源を活用した外国人受入れ推進のための調査・実証事業を2018年から推進しています。

医療需給ギャップの解消

少子高齢化の影響から、日本では医療需要が減少していくと想定されています。令和4年第40回医師需給分科会では、全国では毎年3,500~4,000人程度医師が増加している一方、少子化などの影響により、令和11年以降は医師需要が供給を下回る状態へ移行すると指摘されています。そのため、海外の医療需要に対応していくということが、将来想定される需要減少への対策の一つになる可能性があります。

【補足】医師不足・地域医療の問題

医療需給ギャップの問題に関しては、医師数の不足を指摘する人もいます。医師数自体は上記の通り増加しているのですが、地域偏在が問題になっています。

E-Stat|医師・歯科医師・薬剤師統計 / 令和2年医師・歯科医師・薬剤師統計 統計表より作成

以上は47都道府県における、2020年の人口10万人あたりの医師数を表したグラフです。都道府県によって医師数に大きな差が生じていることが分かります。

医療ツーリズムで起こりうる問題点

医療ツーリズムは、日本人への医療提供が後回しにされる可能性が指摘されることもあります。
医療ツーリズムで受入れる外国人患者さんは日本の医療保険を持たないため、自由診療であり、医療機関が自由に価格を設定できます。また医療ツーリズムで来る患者さんは富裕層が多いので、医療機関にとっては価格を高く設定することで利益を確保しやすくなります。そのため、地域住民の方の中には、外国人患者さんが優先され、日本人の患者さんが後回しにされるのではないかという不安を持たれる方が出てくる可能性もあります。

しかし、実際の日本の医療ツーリズム推進は、地方によっては医師が不足している現状も踏まえ、日本人患者さんへの医療提供の余剰分で取り組むことを前提として行われています。こうした前提をしっかりと理解してもらい地域住民からの理解を得るための情報発信も、推進の上では重要になります。
例えば、愛知県と医療機関が連携して創設された「愛知医療ツーリズム研究会」は、地域医療に影響を及ぼさない範囲で医療ツーリズムを実施するという提言を提出し、日本人患者さんが後回しにされないように医療ツーリズムを推進しています。 

医療ツーリズムの市場規模から見る今後の可能性

医療ツーリズムは世界中で注目が集まっており、市場規模は非常に高い成長率で増加しています。その背景には、途上国の経済成長と生活習慣病などの疾患に罹る患者数の増加など大きな潮流があり、医療ツーリズムの流行は短期的に終わるのではなく、長期的に進んでいくでしょう。
医療ツーリズムを日本が推進していく際には、高い医療技術に加え、豊富な医療資源をもとにスピーディーに医療を届けられることやホスピタリティの高さが強みになります。

医療ツーリズムには問題が生じる可能性が指摘されることもあり十分な配慮が必要ですが、地域医療優先の前提を確保しながら余剰資源の有効活用の観点で推進していくことで、日本の経済や地方の活性化につながる可能性も期待されます。

医療ツーリズムの受入れを医療機関で進めていく際には、外国人患者受入れ体制の整備が必要になります。メディフォンでは、外国人患者の受入れ体制整備について、医療通訳・機械翻訳などを中心に幅広いサポートができます。お困りのこと等ございましたら、お気軽にお問い合わせください。




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著者情報

多言語医療ジャーナルPORT(ポルト)編集部

メディフォンは2014年1月のサービス開始以来、医療専門の遠隔通訳の事業者として業界をけん引してきました。厚生労働省、医療機関、消防などからのご利用で、現在の累計通訳実績は10万件を超えております。「多言語医療ジャーナルPORT(ポルト)」は、メディフォンがこれまでに培った知識・ノウハウをもとに、多言語医療に携わる方々のための情報を発信するメディアです。

監修者情報・友久 甲子

友久 甲子

メディフォンの遠隔医療通訳サービスや外国人患者受入れに関する研修事業の立ち上げを経験。外国人患者受入れに関する研修・セミナーの運営や講義を数多く担当し、医療機関の外国人患者受入れ体制整備コンサルティングや外国人患者受入れマニュアルの作成支援等にも数多くの実績を有する。令和元年度・令和2年度厚生労働省「外国人患者受入れ医療コーディネーター養成研修事業」研修カリキュラムテキスト作成担当・研修講師。令和4年度厚生労働省「医療費の不払い等の経歴がある訪日外国人の情報の管理等に関する仕組みの運用支援事業」有識者委員。