【セミナーレポート】日本災害医学会総会・学術集会|ランチョン

  • 2024.03.25

    セミナーレポート

「外国人被災者を想定した災害医療対応
~観光立国·多文化共生時代の災害医療の在り方とは~」


メディフォン株式会社は、第29回日本災害医学会総会学術集会にて、「外国人被災者を想定した災害医療対応〜観光立国・多文化共生時代の災害医療の在り方とは〜」と題してランチョンセミナーを共催しました。

ランチョンセミナー概要

【主催】日本赤十字社 京都第一赤十字病院

【共催】メディフォン株式会社

【日時】2月23日(金)12:00-12:50

【会場】みやこめっせ 第8会場(B1F 特別展示場A)

【座長】

神戸大学大学院医学研究科外科系講座災害·救急医学分野 教授/神戸大学医学部附属病院 救命救急センター センター長 小谷穣治先生

【講演】

・岐阜市民病院 救急診療部 医長 安田立先生

「救急での外国人患者受け入れから考える災害時外国人被災者対応の留意点」

・メディフォン株式会社代表取締役 澤田真弓

「外国人被災者を想定した災害訓練の実施報告」

また、登壇後は会場の参加者を交え、質疑応答・議論が活発におこなわれました。

岐阜市民病院 救急診療部 安田立先生「救急での外国人患者受け入れから考える災害時外国人被災者対応の留意点」

Point1:外国人対応の3つの方法

安田先生のご講演では、平時の際の外国人対応で利用できる言語対応ツールには大きく分けて3つあるとご説明いただきました。

 対面通訳翻訳アプリ遠隔通訳
利点場の雰囲気やニュアンスをしっかり伝えてられる      どこでも誰でも利用できる非常に多くの言語に即時的に対応できる        
欠点人件費、 時間的制限精度に幅があり、誤訳が起きうる
例)「お腹を押した時と離した時どっちが痛いですか」⇒「お腹を押した時と話した時どっちが痛いですか」
利用料金がかかる

また、実際に安田先生の勤務されていた医療機関において、どのようにツールが利用されていたかご紹介いただきました。

①50歳代の女性で、中国からの技能研修生の方。
とある年の夏にMRI検査でその左側肛門周囲膿瘍と診断し、手術を勧めたが、「研修が終わって国に帰ってからやります」と固辞された。1週間後に同部位から出血・排膿があり、救急外来を受診。翻訳アプリを使用しても治療の必要性がなかなか伝わらなかったが、対面通訳者が来てくれたことで、ようやく理解が得られ、手術に同意していただいて治療が進んだ。
②20歳代の男性で、ベトナム人で警察に抑留中の方。
意識障害、ショック、ビタミン欠乏症、AKI*があり、ICUに入るような重症。しかし、本人からは全く各種同意が得られず、病状説明もできず、家族がどこにどういう風にいるかもわからない状況。ベトナム領事館に電話したが、ベトナム領事館の方も日本語が不自由で話が進まず。メディフォンの3者間通話を利用し、ご家族とも話すことができ、治療や支払い手続きもできた。

*AKIとは:「急性腎傷害」

Point2:災害時の外国人対応の課題と有効なツールについて

次に、災害時の外国人対応の課題と実例についてお話がありました。

国内外の災害時の外国人対応の事例をご紹介いただいた後、災害時に想定される課題については以下とのことでした。

・十分な人員が確保しにくい
・普段から自治体からの情報をキャッチできておらず、災害時の情報も手に入れられない
・一定の施設で患者が集中してしまう
・ネット回線が不安定

さらに、そのような中で、どのような言語ツールが有効なのかご紹介いただきました。

 対面通訳翻訳アプリ遠隔通訳
メリット/
デメリット  
通訳者が被災する可能性がありネット回線が不安定な場合使いにくい・ネット回線と電話回線があるので、つながりやすい
・オペレーターが各地にいるので、災害時もつながりやすい


続いて、外国人避難者専用の避難場所を用意し被災時には対面通訳者を用意するという自治体の取り組みをご紹介いただき、最後に、災害時の外国人対応を円滑におこなうために重要な点についてお話をいただきました。

①病院としてできること
・普段から言語ツールを導入し、定着・浸透をおこなう
・マニュアルを整備する
・災害訓練に外国人患者役を入れる
②情報発信を行う
・平時より避難所、病院の情報を発信
・旅行ガイドブックへの盛り込み
③避難施設の確保
・公的・民間施設の災害時利用契約を進める


メディフォン株式会社代表取締役 澤田真弓「外国人被災者を想定した災害訓練の実施報告」

災害時の医療通訳デモンストレーション実施報告|医療通訳の重要性

2023年11月16日に日本医師会館で実施された防災訓練における医療通訳デモンストレーションについて当社の澤田からお話いたしました。

 本デモンストレーションは、避難所に避難中の外国人患者さんへの対応を想定し実施されました。

ケース1
腹部の痛みでいらした外国人患者さん。日本語・英語でのコミュニケーションができず、避難所の担当者や行政職員も困っていた。そもそも母語が分からなかったが、電話をかけて、コーディネーター(通訳者と医療者をつなぐ役割)が母語を特定し、ベトナム語と特定。途中で電話通訳からビデオ通訳に切り替え、より情報伝達がしやすいようにした。
ケース2
中国語を話していると考えられるが、母語が分からない患者さん。言語確認ができる指差しツールを用いて、母語を特定。中国語のビデオ通訳を利用し、患者さんの口の動きや持っていた医薬品を確認することができ、コミュニケーションを円滑にすることができた。

最後に、訓練にご参加いただいた日本医師会黒瀨巌常任理事の「医療は言葉の表現がとても重要だが、外国の方が医学用語や具体的な症状を日本語で表現することは難しい。 災害時でも医療通訳のサポートを受けることができれば、外国人患者の安全、安心につながる。」という言葉を引用し、澤田からの発表は終わりました。

質疑応答・議論

医療通訳とアプリの違いについて

質疑応答では、医療通訳とアプリの違いについて質問がございました。

安田先生からは、アプリの精度も高くなっているので、救急車で運ばれてきた患者さんとのコミュニケーションでも有効に使えたこともあったが、患者さんからはやはり母国語で聞いたほうが喜ばれる、とお話いただきました。

小谷先生からも、医療という現場では言葉が通じればよいというわけではなく、心のやりとりやニュアンスで伝えるということが重要で、機械翻訳だと直接的な表現になりすぎてしまう、というお話をいただきました。

澤田からは、機械翻訳から医療通訳に切り替えると、それまでは口数の少なかった患者さんが堰を切ったかのようにしゃべりだしたという事例が紹介されました。

また、実際に災害訓練に参加された日本医師会黒瀨巌常任理事からも、
「リアルタイムで患者さんの状況を見ながら通訳をしていただけた。例えば顔色が悪いとしてもどのように顔色が悪いのか、黄色なのか青色なのか、なども通訳者にビデオを通して伝えられるので、非常にスムーズにやり取りができ、本当に役に立つと実感しました」とご発言いただきました。

医療通訳者への教育について

また、医療通訳者への教育について質問がございました。
澤田から、医療通訳者は通訳倫理や医療知識、言語スキルを学ぶ必要があり、例えば日本語ではある言葉がタイ語にはない、ということなどを理解している者が対応していると説明がありました。

また、大事な人が亡くなったなどの悲しいニュースを伝えないといけないときもあると思うが、対応できるのか、という質問もりございました。
澤田の回答としては、経験が浅い通訳者だと感情的になってしまう場合もあるので、重要な告知の場面ではベテランで難度の高いケースにも慣れている者で対応するようにしているとのことでした。

ほかにも、文書の翻訳の重要性についてや、日本医師会の災害時医療通訳サービスについての質問もあり、非常に活気のある質疑応答でした。


最後までお読みいただきありがとうございました。
メディフォンは引き続き、災害時も含めた外国人対応のご支援を行って参ります。


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著者情報

多言語医療ジャーナルPORT(ポルト)編集部

メディフォンは2014年1月のサービス開始以来、医療専門の遠隔通訳の事業者として業界をけん引してきました。厚生労働省、医療機関、消防などからのご利用で、現在の累計通訳実績は10万件を超えております。「多言語医療ジャーナルPORT(ポルト)」は、メディフォンがこれまでに培った知識・ノウハウをもとに、多言語医療に携わる方々のための情報を発信するメディアです。