「外国人医療の10年間とこれから|遠隔医療通訳メディフォンの成長の軌跡を辿る」澤田CEOインタビュー メディフォン10周年記念企画

  • 2024.01.09

    インタビュー

メディフォンは2024年でサービス提供開始から10周年となります。

この10年間、遠隔医療通訳サービスを始めとした様々なサービスの提供を通じて、医療分野において言語や文化の違いを超えた安心・安全・円滑なコミュニケーションの実現を支援してきました。
2022年11月にはご利用通訳件数が10万件を突破し、現在全国約88,000の医療機関でご利用いただけるサービスへと成長いたしました。

これもひとえに皆様のお力添えとご支援のおかげと心より感謝申し上げます

弊社のサービス提供開始10周年を機に、弊社代表取締役CEOの澤田真弓にインタビューをおこないました。遠隔医療通訳サービスメディフォンの10年を振り返るとともに、今後の取り組みについてお話します。

Q. 遠隔医療通訳サービスを立ち上げようとしたきっかけを教えてください。

遠隔医療通訳サービスの構想が出たきっかけは、ある医師からヒンディー語の患者さんの対応に苦慮しているというお話を聞いたことです。当時は医療を専門とした遠隔通訳サービスの事例は日本にはなく、NPOや自治体が医療通訳者を医療機関に派遣しているケースがある程度でした。地域によっては支援体制が皆無のところもあったんですよね。

また、医療通訳者の方々は、主にボランティアとして無償で活動されているケースが多かったです。そのため、今後の訪日・在住外国人の増加を考えると、医療の専門性や命の現場に向き合う重い責任を持つ仕事ですから、この仕組みだと従事する人が足りなくなるのではないかと思いました。

そこで、通訳者と医療者と外国人患者の3者をつなぐ持続的な仕組みを作ることができれば、課題解決に近づくと考え、遠隔医療通訳サービスを作りはじめました。

Q. 医療機関様向けに医療通訳サービスを提供するようになったきっかけを教えてください。

最初は患者さん向けにアプリを作って、空港などでインストールしてもらうことを考えていました。しかし、旅行中に自分が病院に行くことを考えるような健康な人は少なく、早くも頭打ちを感じていました。

そのような時、今もお世話になっている医療機関の方との話の中で、「現場にいる医療従事者は全員が患者さんの為を考えて行動している」というような発言があり、ハッとしました。「私たちが想像で患者さんに寄り添うよりも、医療従事者のために働くことができれば、あとは医療機関の方が100%患者さんのために最善のことをやってくださるのだ」と思ったんです。
以降、患者さん向けではなく、医療機関で働く方向けにサービスをつくるようになり、そこからうまくいくようになりました。「患者さんのために医療従事者を全力で支える」というのは現在でも続くメディフォンの重要な考え方になっています。

例えば、メディフォンでは医療機関の方が利用しやすいように、「コーディネーター」を配置しています。コーディネーターとは、医療従事者と通訳者さんをつなぐ役割を担う人です。医療機関の方が通訳の利用方法や患者さんの言語が分からず困ったときは気軽に相談いただけますし、医療機関の状況に応じて適切な通訳者の方をつなぐこともできます。さらに、コーディネーターがいることで通訳の予約にも対応でき、同じ患者さんの対応には同じ通訳者さんをつなぐことができたり、通訳者の少ない言語でも安心してご利用いただけたりします。
通訳者さんもどのような場面での通訳なのか一言でも聞いてから通訳に入れるため、安心できます。
コーディネーターが間に入ることで、医療機関の方と通訳者さんの双方に安心かつ円滑にご利用いただいています。実際、弊社の医療通訳をご利用いただいている医療機関様からご評価いただく点でもあります。


Q. 立ち上げ時に力を入れていたことを教えてください。

立ち上げ時に苦労したことは色々あるのですが、一つは通訳者さんを探すことでした。特に希少言語の通訳者さんは常に探し続けていました。例えばベトナム語は、今となっては1番利用の多い言語の一つですが、当時はほとんど通訳者さんがいませんでした。色々な通訳者さん向けの勉強会などに顔を出したり、勉強会を主催している方に通訳者さんの紹介をお願いしたりしていました。

さらに、通訳者さんはフリーランス等どこでも働くことができますので、通訳者さんを巻き込み続けることも重要でした。医療通訳者さん向けの研修会や、メディフォンの理念を伝えたり交流したりするイベントを開いていました。

(メディフォン主催の医療通訳者さん向け研修会)
(通訳者さんとBBQをして交流した際の写真)
(通訳者さんとBBQをして交流した際の写真)

他にも、システム開発は大変でしたね。インターンの方のお力も借りながら、一斉通話の機能や、コーディネーター機能を作るなど、医療機関の方にストレスなく使用していただけるようなシステムの構築に力を割きました。

また、システムを作りあげた後、「医療通訳」の必要性を医療機関様に認めていただくことは大きな課題でした。
最初は、これまでの活動の中で知り合った方に紹介していただいた医療機関様に電話でアポイントメントをとるなど、地道な営業で導入していただける医療機関様を増やしていきました。しかし、導入がある程度進んでも最初はなかなか利用が発生せず、鳴らない電話を待つという時期もありました。医療現場が困っていないということだからいいことではあるのですが、本当に困っている時に思い出してもらえているのか不安でした。どうしたらメディフォンを使ってもらえるかはずっと考えてきました。

Q. 10年を振り返ってメディフォンのターニングポイントとなった点を教えてください。

メディフォンのターニングポイントは、主に3つあります。

1つは、2016年に国立国際医療研究センター様のプログラムを引き継ぐ形で「外国人患者受入れ医療コーディネーター養成研修」を開始したことです。医療通訳の仕組みがあっても、その病院内に意義を理解して使いこなす人がいないと利用されません。本研修を通じて、医療機関の担当者様に医療通訳の重要性や上手な利用方法をお伝えすることができました。

その後、その成果と有用性が認知され、厚生労働省の事業として令和元年度から「外国人受入れ医療コーディネーター養成研修事業」が実施されるようになりました。このことで外国人患者受入れ体制整備の一環として医療通訳の重要性がさらに全国的に広がっていったと思います。
弊社では同事業を令和2年度まで受託させていただき、研修カリキュラム・テキストの作成に加え実際の研修の講師を務めました。

当時、外国人の方が日本で増えていくに伴い、少しずつ医療機関でのトラブルが報告されることで、外国人患者さんの受入れ体制の整備不足が医療安全上の課題となるという認識が広がってきていました。これが、事業化の背景にあったと思います。さらに政府が訪日外国人を受け入れ観光立国を目指すという方針を立てていることもあり、外国人旅行者に安心して過ごしていただく上で、より一層大きいリスクとして認識されるようになったことも大きかったと思います。

2つ目のターニングポイントは、2020年から弊社の遠隔医療通訳サービスを日本医師会医師賠償責任保険の付帯サービスに採用いただいたことです。それ以前の2016年から石川県医師会様に、2018年にはオリンピックに備えるなどの理由から東京都医師会様にメディフォンの遠隔医療通訳サービスを実証実験としてお使いいただいていました。それらの実績を評価いただき、日本医師会様の医師賠償責任保険の付帯サービスとして利用いただけるようになりました。

以上のように医療界の主要な関係者の方に応援いただいたことは、メディフォンにとってだけではなく、外国人医療という分野としても非常に心強い追い風になったと思います。

3つ目のターニングポイントはコロナ禍です。コロナ禍では、在住外国人の方の健康確認における通訳を多くさせていただき、通訳件数が急増しました。それまでは観光客などの訪日外国人の対応のご支援が多かった印象でしたが、コロナ禍以降、在住外国人の受入れのための多言語対応のニーズが顕在化したように感じています。コロナ禍を経て、遠隔医療通訳は、在住外国人への医療提供を支える社会インフラとしての役割が定着したのではないでしょうか。

メディフォンの通訳件数の推移(2016~)
メディフォンの通訳件数の推移(2016~)


Q. メディフォンは現在では通訳10万件、88,000の医療機関様にご利用いただけるサービスとなっていますが、成長できた要因をどのように考えているか教えてください。

外国人医療に深く携わってらっしゃるステークホルダーの方々から応援をいただいたことが大きかったと思います。
当初は特に医療通訳自体をご存じない方も多く、存在や意義を知っていただくことに苦労する時期が長く続きました。そのような中でも、学会や研修の場でお褒めのお言葉をいただくことが、大きな励みになりました。

そのような方々にご支援いただけた理由の一つは、弊社が独自で医療通訳者さんの採用・育成をおこない、医療通訳者さんとしっかり直接の連携関係を築いてきたからだと思います。弊社は医療通訳者さんを独自試験の後に採用して、通訳を依頼しています。さらに通訳内容のフィードバックなどもおこなって通訳者さんのスキルの向上の支援にも努めています。
弊社では、医療通訳者さんとの直接の交流を積極的におこない、また医療を提供するチームの一員と考えて環境改善の取り組みもしてきました。そうした人対人の関係性を重視する、ある種「医療的な」アプローチで通訳者さんと向き合ってきたということは非常に重要だと思っています。

実際、当初に比べて一人あたりの医療通訳者さんへお支払いしている報酬も上がってきていることは数字に表れています。

(2018年以降の通訳者さんの数(青)、通訳者さんへの支払総額(オレンジ)の推移)
(2018年以降の通訳者さんの数(青)、通訳者さんへの支払総額(オレンジ)の推移)


Q. これからの10年、どのような将来像を描いていますか?

医療通訳を、より多くの方に利用していただける社会インフラにしていきたいと思っています。

都市圏の医療機関様には重要性や存在を認知していただけるようになりましたが、まだすべての医療機関様には行き届いていないのが現状です。しかし、外国人観光客は依然として増加傾向にあり、日本で働く在住の方も増えています。当たり前に外国人と地域で共生する未来に備え、日本全域で医療通訳がインフラとして機能し、医療機関の方が外国人患者さんの受入れで困ることがないようにしていきたいと思います。

また、医療機関にかかる前の段階でも貢献できるよう努力してまいりたいと思います。現在は、外国人労働者や留学生の方のための多言語医療機関検索や医療機関の予約代行サービスを提供し始めています。

Q. メディフォンとして2024年にチャレンジしていきたいことを教えてください。

2024年は、この10年間で主に医療通訳を通して外国人医療の現場をご支援させていただいた中で得た知見やご指導いただいた学びを、今以上に医療機関様に還元していき、外国人医療という領域を前進させる年としたいと思います。現在想定しているのは主に3つの新サービス・新機能です。

1つは、外国人の方からの入電に対応するサービスの提供です。外国語での入電の一次受けをメディフォンでおこない、必要があれば医療機関様とおつなぎして、通訳者を入れた状態で会話いただけるような機能の提供を開始する予定です。多くの医療機関の方からご要望をいただいているので、早期に実現させていきたいと考えています。

また医療通訳以外のサービスの拡充もしていきたいと考えており、その1つが機械翻訳の改善・機能の拡充です。
厚生労働省のマニュアルでも、外国人患者さんの対応の際には、やさしい日本語・機械翻訳・医療通訳を使い分けることが推奨されています。メディフォンではこれまでも機械翻訳を提供しておりましたが、主に医療通訳の品質向上に注力し、機械翻訳の機能開発はやや手薄でした。
しかし、現場の方の声を踏まえ、機械翻訳をより便利に利用いただけるようにアプリの表示の変更や定型文機能の改善をおこなっている最中です。

また医療通訳以外のサービスの2つ目は、医療文書翻訳の強化です。通訳サービスの提供開始時期からおこなっていた院内資料・表示の翻訳ですが、最近はご依頼をいただくことが非常に増えております。医療翻訳は医療通訳と同様に、高い専門性が必要です。専門性のないところに翻訳依頼をして現場で使えない翻訳文書ができてしまい、一からやり直しになったなどのトラブルケースを医療機関の方からお聞きすることも少なくありません。
メディフォンでは、医療通訳・翻訳者だけでなく、医療の臨床現場で働いていた看護師や薬剤師など医療の現場を熟知している者が所属しています。こうした専門性を活かし、医療機関様の利用場面に即した翻訳の提供をより進めてまいりたいと思っています。


先ほどの話の繰り返しにはなりますが、私たちは「患者さんのために、医療従事者に寄り添う」ことを大事にしております。今後も医療機関の方々が安心して医療を提供できる環境の実現ために、医療機関の皆様の意見を大切にしながら、さらなるサービスの開発・充実を進めて参ります。

変わらぬご支援・ご愛顧をいただけますと幸いです。

代表取締役CEO 澤田真弓
著者情報

多言語医療ジャーナルPORT(ポルト)編集部

メディフォンは2014年1月のサービス開始以来、医療専門の遠隔通訳の事業者として業界をけん引してきました。厚生労働省、医療機関、消防などからのご利用で、現在の累計通訳実績は10万件を超えております。「多言語医療ジャーナルPORT(ポルト)」は、メディフォンがこれまでに培った知識・ノウハウをもとに、多言語医療に携わる方々のための情報を発信するメディアです。