外国人の結核患者|日本の現状と医療機関にできる感染症対策を解説!

  • 2024.02.07

    外国人患者

日本では外国生まれの結核患者の割合がわずかに増加しており、対策が求められるようになっています。

本記事では、日本の外国生まれの結核患者の現状と、医療機関にできる結核を含む感染症の対策について解説していきます。

外国人の結核患者に関する現状

結核は、エイズ、マラリアと並んで世界三大感染症とされ、日本では「国民病」として恐れられてきたという歴史があります。しかし、医療機関の方々を中心としたさまざまな関係者の努力により、結核患者の数は年々減少し、遂に2021年には日本は低まん延国の仲間入りを達成しました。

しかし、近年外国人の結核患者の割合が増加しており、対策の必要性が出てきています。

結核になる外国人患者の数の推移

日本における、外国生まれの新登録結核患者数の推移を以下のグラフに表しました。

厚生労働省 2021年結核登録者情報調査年報集計結果について より作成

日本の総人口における全在留外国人数は約2%であることを考えると、結核患者に占める外国生まれの人の割合が多いことがわかります。また、新登録結核患者における外国生まれの割合は徐々に増加傾向にあることも示しています。
日本では在留外国人の数が増加傾向にあるため、結核患者が増加していく可能性もあります。

また、在留外国人の中には、多剤耐性結核患者が多いことも知られています。多剤耐性結核患者は、薬剤に耐性をもった結核菌を保有しているため治療薬が異なり、治療費用がかさむだけではなく、治療期間も長引く傾向にあります。厚生労働省の「2021年 結核登録者情報調査年報集計結果について」によれば、日本では多剤耐性結核患者の数は2021年で41人とまだ少ないですが、そのうち19人と約半数が外国生まれの患者です。

結核を発症する人数が多い国

以下は、日本における外国生まれの結核患者の出身国別の割合を示したグラフです。

外国生まれ結核患者出身国割合(%)
結核予防会 結核研究所:「増加する外国生まれ結核患者と必要な対応」より作成

日本で結核患者として登録される外国生まれの患者の出身国は、フィリピン、ベトナム、中国、インドネシア、ネパール、ミャンマーと続いています。つまり、日本における結核患者はアジア諸国の出身者がほとんどであることがわかります。

まずは、これら結核まん延国において結核対策が推進されることが望まれますが、入国後に結核を早期に診断して確実な治療をおこなうことや、治療中の帰国に伴う治療中断を防止する取り組みも重要になるでしょう。

入国後すぐ以外にも注意が必要

また、結核予防会結核研究所の発表によれば、外国生まれの結核患者が日本で結核と診断されて届け出がなされるのは、入国後2年以内が約半数で、3割弱は入国後5年以上経ってから結核と診断されています。

そのため、予防接種をしていない外国人患者さんに関しては、入国してすぐだけではなく、入国して数年経った後でも、呼吸器疾患を疑う際には、結核の可能性も視野に含める必要があります。

外国人患者受け入れにおける感染症対策のポイント4つ

結核に限らず、外国人患者さんを受入れる際は感染症対策も重要になります。一部の国では日本とは予防接種の制度が大きく異なり、日本では少なくなった感染症の耐性を持たず、入国後に感染症に罹患する人もいるからです。

以下では、外国人患者さんを受け入れる際に知っておきたい感染症対策について、各場面ごとに紹介します。

①渡航歴を確認する

外国人患者さんは日本人患者さんより直近で渡航歴がある可能性が高いため、渡航歴や経路、渡航元などを確認することが重要です。この情報に基づいて、感染対策の必要性が高い患者さんかどうかを判断する必要があります。

特に呼吸器症状がある場合、発熱・発疹がある場合、消化器症状がある場合などでは、最初に対応した人が院内の感染症対策の担当者に相談して指示を仰ぐとよいでしょう。

②手洗い・咳エチケットについて周知する

日本人にとっては当たり前のことですが、海外では幼少期から手洗いや咳エチケットを学ぶ国ばかりではありません。そのため、ただ「手洗いをしてください。」「咳エチケットをお願いします。」と伝えるだけでは意図が正しく伝わらない可能性もあります。

手洗いの場合は「いつ」「どのように」行うのか、咳エチケットもマスクだけでなく、咳やくしゃみをするときは人のいない方向を向く、腕でカバーする等の具体的な内容を伝えるとよいでしょう。手洗いや咳エチケットについて、多言語で説明した資料などを受付で用意している医療機関も多く見られます。また、やさしい日本語や英語、地域でニーズの高い言語で普段から啓発活動をおこなうことも重要です。

③鑑別疾患について

外国人患者さんの場合、国内の患者さんとは想定すべき鑑別疾患が異なるため、渡航元、潜伏期間、曝露などで鑑別疾患を絞り込みます。
患者の渡航先をもとに鑑別診断をおこなう際に役立つ情報を以下にまとめました。

ウェブサイトの著者URL
厚生労働省検疫所 FORTHhttps://www.forth.go.jp/index.html
外務省海外安全ページhttps://www.anzen.mofa.go.jp/
国立感染症研究所https://www.niid.go.jp/niid/ja/from-idsc.html

また、厚生労働省の作成した「外国人患者受入れのための医療機関向けマニュアル」のp.82には、潜伏期間、曝露方法ごとに、疑うべき感染症のリストがあります。

④予防接種について啓発する

外国で幼少期を過ごした方の多くは、日本とは予防接種歴が異なります。日本では定期接種があるために広く流行しない感染症が、外国人のコミュニティ内で発生する危険性もあります。

こうした流行を予防するためには、地域の外国人の方々に必要な予防接種をしてもらうことが重要です。新型コロナウイルス感染症の流行もあり、現在は感染症への関心が高まっているタイミングとも言えます。こうした機を捉えて来日前・入職前・入学前に予防接種を外国人に推奨することなどを地域に働きかけておくことが、将来の地域や医療機関の感染症リスクを下げることにつながるでしょう。

政府・自治体の結核に対する取り組み

政府や自治体では結核に対して様々な取り組みがあります。結核についての正しい理解を広めるための動画やチラシもあり、医療機関においても活用することができます。

結核対策多言語動画やリーフレットなど

東京都保健医療局では、外国出生者に結核を正しく理解してもらい、安心して検査や治療を受けてもらうための結核対策多言語動画やリーフレットを作成しています。動画とリーフレットのどちらも、中国語(北京語)、韓国語、ネパール語、ベトナム語、ミャンマー語、タガログ語、英語の7か国語にも対応しています。
動画及びリーフレットは、結核情報・対策 東京都保健医療局からご覧いただけます。

また、大阪府健康医療部では、外国人の方向けに結核を正しく理解してもらう多言語パンフレットを作成しております。また結核について説明したウェブサイトを多言語化しています。パンフレットは英語、中国語(簡体・繁体)、タイ語、ベトナム語、ネパール語、タガログ語の7種類で作成されています。
多言語パンフレットは、大阪府/結核多言語パンフレットからご覧いただけます。また、ウェブサイトは、大阪府/結核についてにリンクが記載されています。

日本政府:入国前結核スクリーニング

結核菌の危険度と外国生まれの患者数の増加を背景に、日本政府は「入国前結核スクリーニング」を実施する予定です。「入国前結核スクリーニング」とは、日本における結核患者数が多い国の国籍を有し、日本に中長期間在留しようとする外国人に対して、入国前に結核に罹患していないことの証明を求める制度です。

対象国は、フィリピン、ベトナム、中国、インドネシア、ネパール、ミャンマーの6カ国です。
この国の出身者で日本に中長期間在留を希望する人は、入国前に指定健診医療機関にて問診や身体検査などをおこないます。そこで結核の疑いがある場合は喀痰検査を行い、結核が発覚した場合は治療によって完治するまで入国できないという制度になっています。
詳細は、厚生労働省|入国国前結核スクリーニング Japan Pre-Entry Tuberculosis Screeningからご確認いただけます。

結核など感染症対策をおこない、安心して外国人患者の受入れを

感染症は一度対策を間違えると、次々に広がり、大きな影響をもたらす可能性があるという点で、常に感染症対策をおこなうことが大切です。医療機関が対策することももちろん重要ですが、国が入国前の審査体制を整えることや、一般市民が予防接種を確実に受けることなども重要でしょう。
海外では日本では流行していない感染症が流行していることがあります。また、新興感染症と言われるような、新しく認識された感染症が海外で流行し、日本に持ち込まれる場合もあります。

以上を踏まえ、医療機関の外国人患者体制整備においては、日本では普段見られない感染症や未知の感染症が入ってくる可能性があることを念頭に置いた感染症対策をおこなう必要があります。しかし、外国人患者受け入れの担当者と感染対策担当者が同じであることは稀です。対策にあたっては、院内の感染対策担当者に自院の感染対策が、外国人患者も念頭においたものになっているかを確認するところから、開始すると良いでしょう。


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著者情報

多言語医療ジャーナルPORT(ポルト)編集部

メディフォンは2014年1月のサービス開始以来、医療専門の遠隔通訳の事業者として業界をけん引してきました。厚生労働省、医療機関、消防などからのご利用で、現在の累計通訳実績は10万件を超えております。「多言語医療ジャーナルPORT(ポルト)」は、メディフォンがこれまでに培った知識・ノウハウをもとに、多言語医療に携わる方々のための情報を発信するメディアです。

監修者情報・友久 甲子

友久 甲子

メディフォンの遠隔医療通訳サービスや外国人患者受入れに関する研修事業の立ち上げを経験。外国人患者受入れに関する研修・セミナーの運営や講義を数多く担当し、医療機関の外国人患者受入れ体制整備コンサルティングや外国人患者受入れマニュアルの作成支援等にも数多くの実績を有する。令和元年度・令和2年度厚生労働省「外国人患者受入れ医療コーディネーター養成研修事業」研修カリキュラムテキスト作成担当・研修講師。令和4年度厚生労働省「医療費の不払い等の経歴がある訪日外国人の情報の管理等に関する仕組みの運用支援事業」有識者委員。