外国人患者さんの入院時の対応のポイント|具体例を元に解説!

  • 2024.06.12

    外国人患者

入院する外国人患者さんの数が増えており、対応の機会も増えているでしょう。
本記事では外国人患者さんが入院する際のポイントや役立つツールについて具体的な事例をもとに解説していきます。

入院中の外国人患者の対応の機会は増加していく

観光などの目的で来日する訪日外国人や、日本に実際に住んで働く在留外国人の数は増加傾向にあります。そのため、入院する外国人患者さんの対応をする機会は増加していくと想定されています。

日本にいる外国人数は増加中

日本政府観光局(JNTO)の発表によれば、2023年の訪日外国人旅行者数は2,500万人を超え、コロナ禍で落ち込んだ訪日外国人の数は再び復調傾向にあることを示しています。また、2024年3月、4月では、コロナ禍前を超す数の外国人が来日しており、今後訪日外国人が増加していくことが想定されます。
また、在留外国人の数は2012年から2019年まで右肩上がりに増加してきました。コロナ禍で一度落ち込みましたが、出入国在留管理庁の報道によれば2023年末の在留外国人数は340万人を突破し、過去最高を記録しています。

日本にいる外国人数が増加していることから、医療機関を訪れる外国人の数も増えていくと言われています。

外国人患者の入院を受け入れたことのある医療機関の割合の推移

2018年におこなわれた「医療機関における外国人患者受入れに係る実態調査」では、回答した4,395の医療機関のうち、約16%にあたる693の医療機関が2018年9月の1か月間で在留外国人の入院を受入れたと回答しました。一方、2023年におこなわれた同調査では、回答した2,352の医療機関のうち、約35%にあたる824の医療機関が在留外国人の入院を受け入れたと回答しました。

外国人患者さんの入院を受入れる医療機関の数は徐々に増えてきており、現場でも外国人患者さんの対応をする機会が増える可能性が示唆されています。

外国人患者対応における心構え

外国人患者を特別扱いするわけではない

外国人患者さんの受入れのために準備をおこなう、というと「外国人患者さんを特別扱いする」という印象を持たれる方もいるかもしれません。しかし、実際にはそうではありません。

外国人患者さんは、言語や文化・習慣などさまざまな点で日本人患者と異なるため、通常に比べて「安全レベルが下がる」あるいは「円滑さが失われる」ことが起こりがちです。外国人患者さんだから「普段より手厚い対応をプラスする」のではなく、「マイナスになりがちなものを通常と同じに保つ」という意識で対応することが重要です。

もちろん、医療ツーリズムなどの場合は、その限りではありませんが、日本に住んでいる外国人の方や旅行中の急な入院などでは、通常より医療安全レベルが下がることや円滑さが失われるといった事態を防ぐことが、体制整備の最大の目的になります。

個人的な情報を聞き出す際には目的を話す

また、外国人患者さんの母国の文化として習慣となっていると言われていることについて、対応する外国人患者さんにもそのまま当てはまると想定しない方が良いでしょう。文化や習慣をどれくらい強く守る人なのかは個人に依存します。対応する外国人患者さん個人の意向を必ず聞き出すようにしましょう。

また、個人の宗教や信条について聞き出すことは、個人的な情報を聞くことでもあります。国によっては宗教などによって差別があるため、医療従事者からの質問に対して警戒を抱いてしまう人もいるでしょう。そのため、個人的な情報を聞く際には、円滑に医療サービスを提供するため、という目的を事前に伝えるようにするとよいでしょう。

6つの具体的なケースで解説|外国人患者さんの入院時の対応のポイント

次に、具体的なケースごとに、入院する外国人患者さんの対応を円滑にする方法を解説していきます。

①面会の文化の違いへの配慮

個室に入室した夜、面会に来ていた家族がいつまでたっても帰らないので、面会時間の終了を伝えたところ「病室に泊まりこむつもりでいた。ホテルもキャンセルしてしまい、ここに泊まるしかない。」と言われた。
また、食事に関しても、家族が準備して持ち込んだものを食べたいと言われた。

アジアを中心に、入院中の患者の世話を家族あるいは雇われた世話人がおこなうことが一般的な国もあります。食事の準備も家族でする習慣があるため、日本の医療機関でもそれが当たり前だと思って、家族が病棟に泊り込んで食事を用意しようとする可能性もあります。

面会については、文化の違いが表れます。中南米やアジアなど家族の繋がりを重要視する国では、家族や親戚が入院すると、家族・親戚が大人数で面会に訪れるのが当たり前のため、日本の医療機関でも同じように大人数で面会にやってくることがあります。

医療機関文化・習慣の違いを理解したうえで、入院時の説明や入院案内で、日本(その医療機関)のルールをしっかりと伝えられるように工夫をしましょう。

②食事についての配慮

インド人のヒンドゥー教徒の患者さんから、ベジタリアンであるため肉類を食べないことや牛に関するものは口にすることができないと伝えられた。

食事に関する文化について世界と日本では大きな違いがあります。日本食や入院食の味付けが口に合わないケースや宗教・信条的な理由で食べられないものがある方も少なくありません。アレルギー以外での対応が発生する可能性があることを踏まえ、栄養科などと対応を検討しておくと良いでしょう。

対策としては、入院の申込書にアレルギー以外での食事の配慮が必要かどうか聞く欄を設けておくこと、全ての要望に応えることが難しい可能性があることを記載してくと良いでしょう。

また、事例に応じた対応方法を事前に決めてしまうことも有効です。例えば、アレルギー対応として通常おこなわれている流れと同じように対応することや、院内で対応しきれない場合は、医師の許可を得たうえで食事の持ち込みを可とする、という対応を取るなどが考えられます。また、厳格なイスラム教徒の要望を満たすように作られた食事を出す、専門の給食会社などもあるので、活用するのも良いかもしれません。

食事についても、同じ国・宗教であっても個人によって考え方が大きく異なるため、事前に食べられないものを直接聞くなどすることが重要です。

③入院期間の違い

日本は、入院期間が長いことで知られています。以下は、国ごとの急性期の入院日数の平均を表しています。

参考:OECD|Health care use – Length of hospital stay – OECD Dataより作成

国によっては、日帰り入院や半日入院を入院にカウントしている国もあるため、算出方法にばらつきがあり、正確な数字であるとは言えませんが、日本では長く入院する傾向にあることを明確に示しています。

この原因としては、ただ日本の医療サービスが手厚いだけではなく、家庭医あるいはGP(General Practitioner)と呼ばれる地域の総合診療医の存在など、医療制度の違いもあるでしょう。

いずれにせよ、入院期間が長い場合、また、特に訪日外国人で公的保険がないために医療費負担が高い外国人患者さんの中には早く帰りたいと要求する人がいます。何日間どのような理由で入院してもらう必要があるのか説明することや、退院予定を余裕をもって伝えることが重要です。

④院内の規則についての違い

スマートフォンを取り出し、院内の写真や自分自身の写真を撮り始めた外国人患者がいた。あわてて院内の写真撮影は禁止であることを伝えると、やめたため安心した。しかし、その患者が病室で YouTube の撮影・配信をしていることが発覚し、また問題になってしまった。

院内での写真撮影禁止や携帯電話の使用範囲の制限など、日本人にとって暗黙の了解になっていることが、国が違えば当たり前ではありません。本人は悪気なくおこなっていることが、周りの日本人患者や医療者に取って不快に感じられ、外国人患者さんに対するネガティブな印象を与えてしまう可能性もあります。日本人向けにはあえて言わないようなことについても、必要に応じて注意点として動画や資料・院内掲示などにまとめ多言語で作成するなどの工夫が必要です。

⑤習慣についての配慮

【事例】イスラーム教徒の入院患者さんから、1日に5回の礼拝をしたい。その時間に治療などの予定を入れないこと、また、礼拝室を使いたい、という要望があった。

こうした宗教独自の文化・習慣については、その宗教の人全員がその宗教で一般的なルールに従うわけではありません。それぞれの信仰の深さなどによって大きく変わります。そのため、まずはどういった要望があるのかを聞き出すことが重要です。

また、上の事例の場合、特別な礼拝室の設置をおこなうとなると、予算等の関係から難しい医療機関も多いかもしれません。しかし、個室の患者であればお祈りを許可し、また個室ではない場合は空いている個室があれば礼拝用の部屋として案内する、という対応も可能です。

外国人患者さん個人から要望を聞き出すこと、そして院内の外国人患者さんの数や状況に合わせた対応を決め、事前の説明を丁寧におこなうことが重要です。

⑥身体の接触を伴う際の配慮

イスラーム教徒の女性の入院患者さんに、対応する医師・看護師・技師、すべて女性が良いと言われた。

イスラム教では、基本的に女性は肌の露出を禁じられています。そのため、女性ムスリムの患者さんの中には、全て女性スタッフが対応するよう求める人もいます。また、イスラーム教やヒンズー教の女性は、肌の露出を避けるために大きな布を身につけていることが多いですが、診察時に衣服の着脱や裁断を拒否する人もいます。

いずれの場合であっても、要望を満たすことが難しい場合で緊急を要さない場面では、事前に説明し、了承を取るとトラブルが起こるリスクを減らせます。重篤な状態で救急搬送されるといった緊急の場面では、女性ムスリム患者であっても男性医師や男性医療スタッフの対応をおこなうなどといったルールを決めるとよいでしょう。

入院する外国人患者さんの受入れのポイント

これまで、外国人患者さんの入院時に起こる具体的なケースと対応方法を例示しました。入院前に入院規則を丁寧に説明することや、確認するべき注意事項を予め把握した上で、患者さんと事前にすり合わせをおこなうことが重要なのです。

そこで、次に具体的に入院前の説明を適切におこなうための方法を解説します。

院内文書・表示の多言語化

海外と日本では入院に関するルールや文化において大きな違いがあります。そこで、あらかじめ入院説明の際に、入院に関するルールを齟齬なく伝えることや、宗教・食事に関する確認事項について齟齬なく意思疎通することが重要です。

入院の説明は長時間にわたることも少なくなく、すべて口頭で伝えられたとしても、細部の規則まで覚えられないことも多いでしょう。多言語化された資料があれば、患者さんは説明を頭に入れやすくなり帰ってからも確認できるため、結果的に齟齬が生まれにくくなります。
そのため、入院案内時に用いる説明資料を翻訳する医療機関が増えています。

また、入院時に事故が起きるリスクを防ぐため、避難経路や立ち入り禁止の表示、熱湯注意などの表示を多言語化することも重要です。

医療文書翻訳を依頼する際に失敗しないポイントについては以下の資料で解説しております。ぜひご活用いただければ幸いです。


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言語支援ツールを導入する

多言語資料を用意することに加え、専門の教育を受けた通訳者による通訳である医療通訳を導入し、入院時の説明を円滑にする医療機関も増えてきています。

医療通訳とは医療に特化した通訳者による通訳のことです。言語や文化などが異なる外国人患者さんと医療従事者の間に入り、コミュニケーションを円滑にすることが医療通訳者の役割とされています。
専門の教育を受けた医療通訳者は、通訳技術以外に医療に関する知識も持ち合わせているため、ICなど高度な医療用語が用いられるような場面でも対応できます。また、入院患者さんの急変などに備えて、ご家族への電話連絡の際にも通訳が使えるようにしておくと良いでしょう。

医療機関が外国人患者対応で使える言語支援ツールは主に以下の4つがあります。

1. 対面の医療通訳
医療通訳とは、医療に特化した通訳者が、外国人患者さんと医療従事者の方の間のコミュニケーションを言語面からサポートするものです。
対面の場合は、医療通訳者が医療従事者や外国人患者さんと同じ場所にいて通訳をおこなうことになります。

2. 遠隔の医療通訳
医療専門の通訳者が電話/インターネット回線を用いて遠隔で通訳をおこなう場合を指します。

3. 翻訳機
技術の発展により、簡単な言葉であれば機械が自動的に翻訳することができるようになりました。インターネット上の誰でもアクセスできるような翻訳ツールや、翻訳専用のデバイス、翻訳機のことを指します。

4. やさしい日本語
やさしい日本語とは、日本語がある程度わかる外国人でも分かりやすい日本語です。在留外国人の80%は日常会話なら日本語で話せることから、外国人がわかりやすい日本語として注目されています。受付の際や入院時の簡単な指示の際には、日本語がある程度理解できる外国人であった場合、やさしい日本語を活用するとよいでしょう。

以上の4つの方法について6つの観点で比較した表を以下に記載いたしました。

厚生労働省「外国人患者の受入れのための医療機関向けマニュアル」より作成

厚生労働省の作成した「外国人患者の受入れのための医療機関マニュアル」では、訴訟の発生リスクなども鑑み、医療機関での通訳体制の構築について、単に利便性やサービスの問題ではなく、医療安全対策の一環として検討すべきとしています。

入院中に手術の必要が出た際などは、家族も含めた手術の説明の場が必要となることもあります。その場合、3者間通話に対応した遠隔医療通訳を導入していれば、医療機関と遠方にいる家族、医療通訳者の3地点で円滑にコミュニケーションができます。

下記資料では、医療通訳サービス導入の考え方について解説しております。ぜひご活用ください。


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緊急入院時の対応方法を決めておく

外国人患者さんが緊急で入院し高額な手術を施し、患者さんが退院時にはじめて多額の支払いが必要であることに気づいた場合、未収金となる可能性が高くなります。

海外では先に診療や検査・処置にかかる金額が提示され、それに納得した上で、支払いを済ませて受診する、あるいは、支払いは後でも金額に合意して受診するのが一般的な国も少なくありません。それぞれにかかる金額が提示されず、全てが終わってから請求金額が出てくると「こんなに高いなんて聞いていない。」「いますぐなんて支払えない。」「こちらは料金について合意していないから支払いたくない。」といった反応になり、トラブルになることもあります。

そのため、例えば宿泊一日ごとの料金などを示した料金表などを事前に提示しておくことが理想的です。入院受付の際に医事課と協力をして概算を提示するようにし、場合によっては、前払いやデポジットの活用も有効です。特に自由診療になる患者さんに高額な処置や検査をオーダーする際には、本人に金額を伝えて事前承諾をとる必要があることを、医師や看護師にも共有している医療機関も増えてきています。

外国人患者さんの未収金を防ぐ方法について下記資料で詳しく解説しております。ぜひご活用いただければ幸いです。


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言語の壁を乗り越え、入院する外国人患者の対応を安心かつ円滑に

外国人患者さんが入院する場合、生活のすべてを病棟でおこなうことになり、わずかな時間の受付でのやり取りや、数十分の診察などでは見られなかった様々な文化の違いが表面化しやすいでしょう。医療従事者側では、外国人患者さんからの要望に、どのように対応すればよいか戸惑ったり、対応が正解か不安に思うこともあるでしょう。外国人患者側では、自分の心身の不調だけではなく、慣れない環境にいることによる不安やストレスを抱えることも少なくないでしょう。

そうした互いに不安がある状況では、事前にお互いの文化について知ることに加えて、言葉を通じ合わせる手段を用いてコミュニケーションを丁寧に取ることが重要です。場面に応じて、やさしい日本語・機械翻訳・医療通訳などを使い分けてコミュニケーションを円滑化することで、両者の不安も少しずつ解消されていくでしょう。



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著者情報

多言語医療ジャーナルPORT(ポルト)編集部

メディフォンは2014年1月のサービス開始以来、医療専門の遠隔通訳の事業者として業界をけん引してきました。厚生労働省、医療機関、消防などからのご利用で、現在の累計通訳実績は10万件を超えております。「多言語医療ジャーナルPORT(ポルト)」は、メディフォンがこれまでに培った知識・ノウハウをもとに、多言語医療に携わる方々のための情報を発信するメディアです。

監修者情報・友久 甲子

友久 甲子

メディフォンの遠隔医療通訳サービスや外国人患者受入れに関する研修事業の立ち上げを経験。外国人患者受入れに関する研修・セミナーの運営や講義を数多く担当し、医療機関の外国人患者受入れ体制整備コンサルティングや外国人患者受入れマニュアルの作成支援等にも数多くの実績を有する。令和元年度・令和2年度厚生労働省「外国人患者受入れ医療コーディネーター養成研修事業」研修カリキュラムテキスト作成担当・研修講師。令和4年度厚生労働省「医療費の不払い等の経歴がある訪日外国人の情報の管理等に関する仕組みの運用支援事業」有識者委員。