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外国人患者の医療費|日本の現状や仕組みを解説!
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2023.09.08
外国人患者
国籍や出身国に関わらず、日本に一定期間以上住んでいる人は公的保険に加入する義務があります。そのため、日本に住んでいる「在留外国人」の場合は、保険診療となるため、医療費は通常通りです。
一方で、日本の健康保険証を持たない外国人患者さんは自由診療での受診となります。自由診療の場合、医療機関が任意に医療費を設定できます。訪日外国人患者さんの来院が増えてきていることから、公的保険に加入していない患者さんへの医療費の設定を変更する医療機関も増えてきています。
そこで、本記事では外国人患者さんに対する医療費について制度や価格設定の考え方を中心に解説します。
「外国人患者」の種類
下図は外国人患者さんの種類を簡単に表した図です。
「在留外国人」とは、日本に90日を超えて住んでいる外国人のことを指し、「訪日外国人」とは旅行やビジネスなどで短期的に日本に訪れている外国人のことを指します。また、「渡航患者」とは、治療を目的に来日している外国人患者さんのことを表しています。
外国人患者さんの医療費について
外国人患者さんが来院した際に、医療費をどれくらい請求してよいのでしょうか。現在の日本の医療費の制度について解説します。
公的保険がある場合は保険診療
外国人患者さんが、保険証を保持しており病院で提示すれば、他の日本人と同じように保険診療となります。保険適用外の治療でない限り、かかった医療費の3割以下の自己負担となります。
技能実習や特別技能などの就労のための在留資格で3か月以上日本に滞在している外国人に対しては、例外を除いて社会保険に加入させることが雇用者の義務となっています。
また、留学生やワーキングホリデーなど社会保険に入ることがなく、3か月以上日本に滞在する75歳未満の外国人は、例外を除いて国民健康保険に加入する必要があります。
75歳以上の3か月以上の滞在者は、後期高齢者医療制度への加入が必要になります。
逆に、観光などの目的で短期滞在する外国人の場合は日本の公的医療保険に加入していないため、自由診療となります。
【補足】通訳費や翻訳費は、保険診療でも保険外費用として請求可能
医療通訳などの料金は、在留外国人患者さんであっても保険外費用として請求できます。
厚生労働省は、医療通訳や翻訳を「療養の給付と直接関係のないサービス等」と位置づけており、その費用に関しては、通訳サービスの内容を患者に明確に説明し同意を得た上で保険診療分とは別に徴収できるとしています。
詳しくは厚生労働省 療養の給付と直接関係ないサービス等の取扱いについて (平成17年9月1日 保医発第09010をご覧ください。
訪日外国人の患者さんの医療費の現状
短期滞在の訪日外国人患者さんに対しては自由診療になるため、医療機関として任意に価格を設定して、請求・徴収することができます。自由診療となる訪日外国人患者さんの医療費について、日本の医療機関はどのような価格設定をおこなっているのかについて解説していきます。
診療報酬点数を活用している病院が9割
自由診療で任意に価格を設定できるため、医療費の設定方法については様々な方法が考えられます。しかし、多くの病院で診療報酬点数表を活用し、1点を〇〇円として訪日外国人向けの医療費を設定しているのが実情です。
厚生労働省が令和3年におこなった「医療機関における外国人患者の受入れに係る実態調査」によれば、自由診療となる訪日外国人患者さんの医療費の設定に診療報酬点数表を活用していない病院は2.8%です。また、「拠点的な医療機関」に限れば診療報酬点数表を用いていない医療機関は0.8%であり、外国人患者さんを多く受け入れる病院ほど、診療報酬点数表を活用しています。
【補足】拠点的な医療機関
拠点的な医療機関とは、「「外国人患者を受け入れる拠点的な医療機関」の選出及び受入体制に係る情報の取りまとめについて(依頼)」(平成 31 年3月 26 日付け医政総発 0326 第3号、観参第 800 号) に基づき、都道府県に選出された医療機関を指します。
拠点的な医療機関のリストについては、こちらから確認できます。
15%以上の病院で訪日外国人の患者さんの診療価格を1点当たり10円を超える設定に
以下のグラフは、訪日外国人の患者さんに対する医療費について、各医療機関が診療報酬点数1点当たり何円で請求しているのかを表したグラフです。
全体では、10円を超える設定をしている医療機関は15%程度ですが、外国人患者さんを受入れる拠点的な医療機関やJMIP/JIH認証医療機関、つまり、外国人患者さんの受入れが多いと考えられる医療機関では、その割合が高くなっています。
特に、JMIPやJIHといった外国人患者受入れに関する認証を取得している医療機関では、10円を超える機関が約7割、20円を超える機関だけでも4割近くあります。外国人患者の受入れに慣れた医療機関では1点20円や30円などの設定をしていることも多いのです。
1点10円以外での請求をすることに慣れていない医療機関が多いことは事実ですが、外国人患者さんの受入れについては、通訳や翻訳などの体制整備が必要であったり、言語サポートを入れる分対応時間が長くなったりするという現実的な負担を鑑みて、妥当な価格設定はどの程度なのかを各医療機関で検討する必要性が高まっているといえるでしょう。
【補足】JMIP/JIHとは
JMIPは「Japan Medical Service Accreditation for International Patients」の略称で、日本語名は「外国人患者受入れ医療機関認証制度」になります。JMIPは、外国人患者さんが安心・安全に医療サービスを受けられることを目的とし、外国人患者さんの受入れ体制を整備している医療機関を認証する制度です。
JIHは「ジャパンインターナショナルホスピタルズ」の頭文字をとった名称です(以下JIH)。JIHは、日本で治療・検査を受けることを目的に来日する外国人患者さんの受入れに意欲的で外国人患者受入れ体制の整備が進んでいる医療機関を認証し、海外に発信することを目的として作成されました。
JMIPについては以下の記事で詳しく解説しています。ぜひご活用ください。
>>>「JMIPとは|制度概要や取得する3つのメリットを解説!」
治療・検査を受けることを目的に海外に渡航することは「医療ツーリズム」や「メディカルツーリズム」と呼ばれます。医療ツーリズムについては以下の資料で解説しておりますので、ご活用いただければ幸いです。
>>>お役立ち資料「医療ツーリズムの今~医療ツーリズムに注目が集まる背景~」をダウンロードする(無料)
訪日外国人に対する医療費の設定の考え方
訪日外国人患者さんの医療費の設定について抑えるべき注意点や、設定する手順などを解説していきます。
訪日外国人の医療費を高く設定する理由
訪日外国人の医療費をどのように設定するかについては様々な考え方があります。厚生労働省は、『外国人患者の受入れのための医療機関向けマニュアル』において以下のように記載しています。
外国人患者の受入れを円滑に行うためには一定の費用をかけて通訳体制や院内環境を整備する必要があります。また、特に訪日外国人旅行者患者の場合には、(中略)保険会社や医療アシスタンス会社とのやり取りなど、公的医療保険の対象の患者では生じないような事務的・時間的負担が発生します。
そのため、自院において外国人患者の受入れ体制を整備し、経営的にも安定してその体制を維持していくためには、その費用等をきちんと反映した診療価格を設定し、訪日外国人旅行者患者等に対してはその設定された診療価格に基づいて医療費を請求していくことも検討が必要です。
引用:厚生労働省|外国人患者の受入れのための医療機関向けマニュアル
本記事では、医療費を1点10円より高く設定する2つの理由を紹介します。
1. 日本の医療は保険料・税金によって支えられている部分が大きいから
以下のグラフは、日本における医療費がどの財源から支払われているかを示したグラフになります。
参考:厚生労働省|令和2(2020)年度 国民医療費の概況
以上のグラフを見ると、医療費の財源の半分は保険料、4割弱が公費、つまり税金から賄われていることがわかります。訪日外国人は、日本で暮らして働いている人と比べると保険料や税金をほとんど支払っていません。そのため、医療費のうち、自己負担10割で支払ったとしても本来必要な費用の一部しか支払われていないと言えるのです。
2. 外国人患者さんには特有の費用がかかるから
もう一つの理由は、外国人患者さんの受入れには特有の費用がかかるからです。
訪日外国人の方の多くは、日本語が通じず通訳や翻訳が必要ですし、海外とのやりとりや外国人患者さんならではの説明のために、通常より多くの手間や時間がかかることがほとんどです。そのほか外国人患者さんを円滑に受け入れるためには、様々な体制整備が重要になります。
つまり、実際にかかる手間(人件費)や原価の分を、上乗せして請求することで賄うというのが2つ目の理由です。
医療費を設定する際に役立つ資料
しかし、訪日外国人の患者さんの医療費をどのように設定すればよいのかは、医療機関の方にとって難しい問題であることも少なくありません。そこで、平成 30 年度厚生労働行政推進事業「外国人患者の受入環境整備に関する研究」の知見から、医療機関が訪日外国人患者さんに自由診療を提供する際の個別の診療価格設定に資するよう「訪日外国人の診療価格算定方法マニュアル」が作成されました。
やや専門的な内容ですが、訪日外国人の患者さんに対する価格設定を検討する際には、一度参照されると良いでしょう。
本記事では、マニュアルから医療費を設定する際の考え方や手順を抜粋し、要約して解説します。
医療費の設定の手順
外国人患者受入れの方針を立てる
自由診療の訪日外国人に対する診療価格をどのように設定するかは、医療機関における外国人患者受入れ体制の構築についての方針に大きな影響を与えます。そのため、医療費の設定をする前に、まず外国人患者受入れに関する方針を定めると良いでしょう。受入れ方針の設定については、厚生労働省の『外国人患者の受入れのための医療機関向けマニュアル』を確認してください。
医療費算出の手順
以下の画像は、医療費の算出をおこなうプロセスを図にしたものです。
マニュアルでは、医療の技術的難易度や患者の享受する価値から費用を計算するという方法ではなく、診療報酬点数制度を用いて、主に医療費原価から診療価格を設定する方法が紹介されています。医療費原価については、外国人診療の際に特別にかかる費用と通常診療の原価における増加分の二つに大別しています。
訪日外国人の患者さんの医療費は日本人患者さんの3倍以上となる場合も
訪日外国人の診療価格 算定方法マニュアル 第2.4版では、139ページ以降に、訪日外国人患者さんの治療に対する医療費について、実際の医療機関に調査をおこなった結果が掲載されています。訪日外国人患者さんの診療価格が、日本人患者さんの一般的なケースの何倍にあたるかの調査結果について、以下の表でご紹介します。
外来:喉頭炎 | 1.31倍 |
外来:蕁麻疹(アレルギー治療) | 1.56倍 |
外来:出血性の膀胱炎 | 2.21倍 |
入院:胆管炎 | 2.92倍 |
入院:虫垂炎 | 1.22倍 |
以上の表を見ると、訪日外国人患者さんの医療費は日本人の患者さんの1.3倍から3倍近くと幅広い範囲だと分かります。
また、重症肺炎での入院症例の診療価格は日本人患者さんの3.6倍、大腿骨転子部位骨折の手術の診療価格は3.59倍だったと報告されました。やや特異なケースではありますが、外国人患者さんの病態によっては、日本人患者さんと原価で大きな差が出ることが分かります。
本調査は、特定の医療機関の特定の患者さんの事例のため、注意が必要です。しかし、一つの事例として、医療費の設定の際の参考にすることは可能です。
【補足】訪日外国人の診療の際にかかる費用の項目の詳細例
訪日外国人患者さんの診療の際に、特別にかかる費用項目の詳細例が以下になります。院内の外国人患者受入れ体制を踏まえて、費用項目を調整すると良いでしょう。
外国人患者の医療費の未払い問題
外国人患者さんの受入れに際して、医療費の未払いについて懸念される医療機関の方もいるかもしれません。特に訪日外国人は自由診療となるため、1件あたりの未収金額が大きくなる傾向があります。ただし、訪日外国人の未収金については、医療機関側の適切な対策によってかなり減らすことができることが先進機関の事例などで明らかになっています。
外国人患者さんの医療費未払いの対策方法や対応手順については以下の記事で解説しておりますので、ぜひご活用ください。
>>>「外国人患者さんの医療費未払い|今すぐ取り組める5つの対策を解説!」
外国人患者の医療費は、公的保険の有無で判断しましょう
本記事では外国人患者さんの医療費に関する制度と医療費の設定手順などについて解説してきました。
外国人患者さんであっても、日本に住んでいて公的保険に加入している人は保険診療で日本人との違いはありません。一方、観光客など海外在住で日本の公的保険に加入していない人は自由診療となり、医療機関が自由に診療価格を決定することができます。
しかし、自由診療となる訪日外国人患者さんの医療費をどう設定するかは難しい問題です。一律的な答えはなく、院内の外国人患者さんの来院数などのデータや、受入れ体制の整備状況などから総合的に判断することが重要です。
最近では、診療報酬点数の1点あたりの金額を10点を超える金額で設定する医療機関が増えており、特に、外国人患者の受入れ数の多い医療機関でその傾向が高くなっています。1点20-30円と設定する医療機関も珍しくありません。
厚生労働省でも診療価格の設定に関するマニュアルを公開しています。他院の状況やマニュアル等を参考にしながら適切な価格の設定をご検討ください。
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