医療翻訳とは?|院内文書翻訳の重要性と相場やサービスの選び方を解説

  • 2024.06.04

    医療通訳

医療機関において外国人患者の来院が増えており、院内文書の翻訳の必要性が高まっています。しかし、医療に関する資料・文書を翻訳する医療翻訳は、高い精度・専門性が求められます。

そこで、本記事では医療翻訳の相場やサービスの選び方を解説します。

医療翻訳とは?

医療翻訳とは、医療に関連する翻訳のことを指します。医療翻訳の対象範囲には、以下のような文書・文字があてはまります。

■ 医療機器や医薬品に関する書類(申請書類や取り扱いマニュアル)
■ 医学・薬学の論文・記事など
■ 医療機関内の患者向け資料・院内表示など

医療機器や医薬品は産業としてグローバル化が進んでいるため、翻訳の需要が高まっています。一方、医療機関においても、訪日・在留外国人の増加が背景にあり、院内資料や院内掲示の多言語化が求められています。

本記事では院内資料・表示の翻訳を中心に、翻訳の相場や依頼の進め方について解説します。

院内資料・表示の翻訳の重要性

一般的に医療翻訳として挙げられるのは、医療機器や医薬品に関する書類、医学・薬学におけるアカデミックな文書の翻訳です。しかし、日本にいる外国人が増えている中、日本語を話さない・読み書きが難しい外国人患者さんに対しても、安全かつ円滑に医療を提供するために、医療機関でも患者さん向けの文書や院内表示等の翻訳をおこなうところが増えています。

医療安全のための翻訳

外国人患者さんの受入れに際して、文書の翻訳は医療安全の観点から重要です。日本に住んでいる在留外国人で日本語が話せる方であっても、日本語の読み書きは難しい、という方は少なくありません。また欧米などでは、「医療は契約である」という意識が普及しており、同意の場面で文書を求める人もいます。
特に侵襲性の高い手術の説明と同意を求める場面など、患者さんの十分な理解が求められる場面では、医療紛争を避けるためにも翻訳された同意書や説明資料があることが望ましいでしょう。

医療提供における円滑性の向上のための翻訳

また、医療を円滑に提供する点でも、資料の翻訳は有効です。あらゆる場面で機械翻訳や医療通訳を使ってコミュニケーションをとろうとすると、時間がかかってしまいます。そのため、検査の説明や入院時の案内など定型的な説明がおこなわれる場面では多言語化された資料を作成し、待ち時間に読んでもらうなどすると省人化や円滑な受入れにつながるでしょう。

他にも、CTやMRIなどの、検査を希望する患者さんが多い一方、患者さんが指示に反した行動をとると最初からやり直しとなり時間がかかるような検査の場合、説明資料を多言語化しておくことは重要でしょう。事前に資料を渡して十分に理解してもらってから検査を実施することで、やり直しになるリスクを減らすことができます。

院内資料・表示において、翻訳の優先順位の付け方

院内資料・表示の翻訳を進める際、どの資料から翻訳するかについてどう考えればよいか悩ましく感じる医療機関の方も少なくありません。院内文書も表示も膨大な量があるため、すべてを一度に多言語化することは現実的に難しいでしょう。
そこで、資料の優先順位の付け方について解説します。

優先順位をつけていく際には、医療安全上のリスクの大きさと使用頻度の多さで判断することが重要です。
使用頻度の高さで言えば、3段階に分けられるでしょう。

基本的には1から順に考えつつ、医療安全上重要な資料から翻訳していくとよいでしょう。

1は診察申込書や問診票、入院案内や立ち入り禁止を示す表示などが当てはまります。2に当てはまる資料を考える際は、外国人患者さんがどこの診療科で多いのか調べることが重要です。例えば産科が外国人患者さんをよく受入れている場合は、産科で使用頻度が高く翻訳しないとリスクが高まる資料の翻訳の優先度が高くなるでしょう。
3の場合は、翻訳しないことによる医療安全上のリスクが高い、例えば、侵襲性が高く難易度も高い手術の同意書などが必要になれば、その必要に応じて翻訳すると良いでしょう。

以上は考え方の一例であり、外国人診療を担当する部署がある場合はその部署で、無い場合は診療科を横断した会議等で議論することが重要です。

医療翻訳会社を選ぶ際のポイント

翻訳すべき資料がある場合、多くの医療機関では外部の会社に依頼することもあるでしょう。院内資料・表示の翻訳を依頼する際に気を付ける点について解説していきます。

医療に関する専門性が担保されているか

医療翻訳は、医療用語や医学的概念などの専門知識が不可欠です。医療翻訳の実績を持ち、医療用語についても精通していると判断できる会社に依頼すると良いでしょう。

院内資料・院内表示の翻訳実績があるか

院内資料・院内表示の翻訳については、医療の専門知識に加え、国内外の医療文化や習慣、病院内部の事情を理解していることも重要です。
ホームページに載せる文章と患者さんに渡す資料、患者さんと医療者の双方が確認する資料では、それぞれ求められる文体や使う言葉の難しさが全く異なります。つまり、院内資料の翻訳は、使用場面に合わせて適切なレジスタ※を選択して、適切な言葉遣いで翻訳することが重要なのです。

そのため、医療の現場の事情に詳しく、院内資料・表示の翻訳を請け負った実績が豊富な会社に依頼することが重要です。

※レジスタ
レジスタとは、言語使用域とも訳されます。発話には、それぞれその場に適した表現があり、家族内、友達同士、職場の知り合いとの雑談、職場の会議、異なる会社の人との打合せ、公の場での発言、すべて異なる言葉遣いが必要となります。レジスタとは、そうした特定の目的や場面で使用される言語変種のことです。

希望する言語に対応しているか

当たり前のことではありますが、希望する言語に対応しているか、確認しましょう。特に、英語・中国語以外の希少言語の場合は翻訳者が少なくなるので、注意が必要です。

また、国名と言語名が一致しないことは少なくありません。インドでは英語以外にヒンディー語が公用語となっていますし、バングラデシュの公用語はベンガル語です。
さらに、どの文字を使用するかにも注意を払う必要がある場合もあります。例えば、中国語の表記方法には簡体字と繁体字の2種類があり、患者さんの出身国・地域によって判断する必要があります。

依頼する言語や文字は間違いが無いように確認し、対応している会社を選びましょう。

レイアウトへの反映まで対応しているか

日本語は他の言語に比べて文字数が少ない傾向にあり、ほとんどの場合、他の言語に翻訳した場合は文字数が元の文章より約2倍ほど多くなります。そのため、元の資料のデザイン・レイアウトが適さない可能性があります。

また、翻訳書類は、翻訳した文章を元の文章と併記するか、単独で記載するかで2種類の形式があります。併記の場合、さらに文字数が2倍となるので、レイアウトの修正が必要となる場合があります。

そこで、翻訳会社が翻訳した文章の文字数に合わせて、レイアウトの編集もおこなってくれるか確認すると良いでしょう。翻訳業者によっては、原文と翻訳文の対応表だけを納品するところもあります。その場合、自院で翻訳された文章を用いて、資料を利用できる状態に編集する手間が必要となります。

医療翻訳サービスの相場

次に医療翻訳を外部に委託する場合の相場について解説します。
医療翻訳は、医療に関する専門知識が必要になるため、一般的な翻訳より高価になる傾向があります。日本翻訳連盟によると、医学・医療・薬学の翻訳は、英語から日本語の翻訳で1文字あたり35円、日本語から英語の翻訳で30円とされています。

ただ、上記は英語の翻訳です。院内資料に関しては、どの国籍の外国人患者さんの来院が多いかによって何語に翻訳するべきか変わります。英語・中国語は翻訳者の数も多いでしょうが、それ以外の言語の医療翻訳者は希少であるため、1文字30円よりも価格が高くなる可能性があります。

【補足】公開資料を有効活用して翻訳費用を節約!

多言語資料に関しては、官公庁や自治体などで様々な資料が公開されています。こうした無料で公開されている資料を有効活用すれば、費用を節約することができます。

厚生労働省の補助事業「外国人患者の受入れに資する医療機関認証制度等推進事業」でメディフォン株式会社が運営している外国人患者受入れ情報サイトでは各省庁・自治体等が公開している多言語資料をまとめております。ぜひご活用ください。

医療翻訳者の資格

翻訳者については通訳者と同様に国家資格はありません。
一方で、民間では翻訳者の資格制度がいくつかあり、主な資格としては以下の3つが挙げられます。

JTFほんやく検定
翻訳実務検定TQE®
JTA公認翻訳専門職資格

JTFほんやく検定には医学薬学分野が対象に含まれています。また翻訳実務検定TQE®とJTA公認翻訳専門職資格には、医学・薬学専門の試験があります。

しかし、あくまで民間資格であるため、優秀な翻訳者は皆資格を取得しているという状況ではありません。医療翻訳の資格がなくとも、医療職の資格保有者や製薬会社や医療機器メーカーなどの勤務経験をもとに、質の高い翻訳をおこなうことができる人もいます。

さらに、上記の資格で想定されているのは主に医学や薬学の論文等に関する翻訳であり、医療機関における患者さん向け文書については、異なる知識やスキルが必要になることも少なくありません。医療機関における院内資料の翻訳には、医学薬学の知識だけではなく、国内外の医療文化や習慣に対する知識が重要です。
そのため、翻訳資格にこだわりすぎず、院内資料の翻訳の実績がある翻訳者に依頼すると良いでしょう。

院内資料・掲示の翻訳で、外国人患者受入れを安全かつ円滑に!

日本にいる外国人が増えている中、医療安全はもちろん、外国人患者さんを円滑に受け入れるためにも、院内資料・院内表示の翻訳は重要です。

医療翻訳は、高い精度・専門性が求められるため、一般の翻訳より難しいと言われています。翻訳者の国家資格はなく、一般の資格もありますが、資格がない翻訳者でも能力が高く、実績のある人もいます。翻訳を依頼するときは、依頼する文書の翻訳経験があるか、などを確認して依頼すると良いでしょう。


院内資料・表示などの医療文書の翻訳を進める際に、お役立ていただける情報を一つにまとめた資料を公開しております。ぜひご活用ください。



>>>失敗しない!院内資料・院内表示の翻訳マニュアル


メディフォンでは、院内資料・表示の翻訳も多数承っております。医療通訳者や医療機関での勤務経験がある者が携わっておりますので、医療用語はもちろん、翻訳資料の使用場面に応じて適切な翻訳をおこなうことができます。
医療文書翻訳に興味がある方はお問い合わせいただければ幸いです。



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著者情報

多言語医療ジャーナルPORT(ポルト)編集部

メディフォンは2014年1月のサービス開始以来、医療専門の遠隔通訳の事業者として業界をけん引してきました。厚生労働省、医療機関、消防などからのご利用で、現在の累計通訳実績は10万件を超えております。「多言語医療ジャーナルPORT(ポルト)」は、メディフォンがこれまでに培った知識・ノウハウをもとに、多言語医療に携わる方々のための情報を発信するメディアです。

監修者情報・友久 甲子

友久 甲子

メディフォンの遠隔医療通訳サービスや外国人患者受入れに関する研修事業の立ち上げを経験。外国人患者受入れに関する研修・セミナーの運営や講義を数多く担当し、医療機関の外国人患者受入れ体制整備コンサルティングや外国人患者受入れマニュアルの作成支援等にも数多くの実績を有する。令和元年度・令和2年度厚生労働省「外国人患者受入れ医療コーディネーター養成研修事業」研修カリキュラムテキスト作成担当・研修講師。令和4年度厚生労働省「医療費の不払い等の経歴がある訪日外国人の情報の管理等に関する仕組みの運用支援事業」有識者委員。