外国人の妊婦さんの支援|現在の取り組みや役立つツールをご紹介

  • 2024.08.20

    外国人患者の出産

外国人が日本で出産することは、言語や文化・風習や置かれた環境などから様々な困難があります。
本記事では、外国人の妊婦さんの現状について紹介し、支援の際に役立つツールなどを紹介します。

外国人妊婦さんの現状

まず、外国人の妊婦さんの総数や、国籍、在留資格の状況をグラフを用いて説明します。また、今後どのように推移すると予測できるかについて解説します。

若年層(15~34歳)の在住外国人が増えている

出入国在留管理庁の在留外国人統計によれば、若年層の在留外国人の数は、コロナ禍を除き男女ともに右肩上がりに増えています。

引用:在留外国人統計(旧登録外国人統計)統計表 | 出入国在留管理庁(2013~2023)

また、以下は若年層(15~34歳)における、日本人に対する在留外国人の割合を示したグラフですが、コロナ禍を除き外国人の割合は拡大傾向にあります。

引用:政府統計の総合窓口|在留外国人統計(旧登録外国人統計)12月 2013~2022年

2023年度12月時点では、日本にいる若年層全体における外国人の割合は約6.7%と、15人に1人の割合まで増加しています。

若年層(15~34歳)の在住外国人状況

以下は若年層の女性の在留外国人の国籍の割合を示したグラフです。

引用:政府統計の総合窓口|在留外国人統計(旧登録外国人統計)2023年12月


日本に住む外国人の国籍は、以前は中国や韓国・朝鮮、ブラジルやフィリピンなどが大半でしたが、最近ではベトナムやネパールなど東南アジアの人が増えていると言われています。以上のグラフでも、ベトナムやネパール、ミャンマーなど東南アジアから来ている外国人が多いことが分かります。

以下は若年層の女性の在留外国人の在留資格を示したグラフです。

引用:政府統計の総合窓口|在留外国人統計(旧登録外国人統計)2023年12月

以上のグラフから技能実習・特定技能の在留資格が全体の4分の1を占めており、日本に中期的に滞在して労働する外国人女性が一定数いることがわかります。
日本の人口が減少し労働力が不足する中、外国人数が増加する傾向は今後も続くと言われています。

24人に1人は親の一方または両方が外国籍

以下は、日本で生まれた子どもにおいて、父母が外国人である人数と割合を示した表です。

参考:厚生労働省|日本における外国人の人口動態 2021厚生労働省|人口動態調査_父母の国籍別に見た年次別出生率及び百分率 2021

父母に外国人を持つ子どもの割合は4.2%で、すなわち約24人に1人は親が外国人であると分かります。

今後の外国人数の増加に伴い、親に外国人を持つ子どもの割合は今以上に増加すると言われています。つまり、医療機関において外国人の妊婦の方を受け入れる機会も増えていくと予想されています。

外国人の妊婦さんが抱える課題

外国人の妊婦さんが抱えやすい課題について、外国人が置かれている状況などを踏まえて解説します。

言語の壁

最近は技能実習や特定技能などの外国人の労働者のための在留資格が拡充されており、中期間日本に滞在する外国人が増えています。こうした外国人は多くが東南・南アジアから働きに来ています。

技能実習や特定技能で求められる日本語能力はN3~N4です。日本語能力試験 JLPTによれば、N4は「ややゆっくりと話される会話であれば、内容がほぼ理解できる」程度です。つまり、技能実習や特定技能の在留資格で働いている人において、日常会話程度なら問題ないが、込み入った話となると難しいという人は少なくありません。
そのため、医療機関における診察や検査結果の説明などでは十分に医師の話などを理解できない可能性もあります。

また、日本の多くの医療機関では医療通訳を利用できる状態にはなく、通訳者を連れてくるように求められることもあります。しかし、日本に来てすぐの時点で、通訳をしてくれるような知り合いがいる人は多くありません。

普段の生活では問題なく過ごせていても、医療機関を受診するような際は言語の壁が大きくなる傾向にあることを抑えておくとよいでしょう。

医療機関における外国人患者さん来院時の対応ステップについては、以下の記事で解説しております。ぜひご活用ください。

セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツ(SRHR)の問題

外国では、女性の地位が低い国も少なくありません。そうした国の出身者の女性はSRHRに関する問題を抱えている可能性もあります。

SRHRとは、「性と生殖に関する健康と権利」を意味する言葉です。性と生殖について一人ひとりが適切な知識と自己決定権を持ち、自分の意思で必要なヘルスケアを受け、自らの尊厳と健康を守れることを指します。出産に関連する権利としては、妊娠・出産・中絶などについて十分な情報を得られ、いつ・何人子どもを産むか、産まないかを自分で決められる権利があります。

日本でもSRHRがあらゆる人に十分に享受されているわけではありませんが、日本より女性の地位が低く、SRHRが侵されやすい国もあります。日本にいる外国人女性の中にも、パートナーが避妊してくれないために予期せぬ妊娠をしてしまう人がいます。

妊娠・出産に関する文化の違い

海外では、日本とは異なる出産・妊娠に関する文化や考え方がある国もあります。そのため、日本の妊娠・出産に関する文化・習慣に戸惑いを覚える外国人の妊婦さんも少なくありません。

たとえば、無痛分娩の実施割合は国によって大きな差があります。欧米では無痛分娩の実施率が7割を超えている国も少なくありませんが、日本では令和2年の調査では8.6%程度に留まっています。

また、中国の伝統文化では出産後約1カ月の間、家を出ることや、冷たい飲み物を飲むこと、シャワーを浴びることなど、授乳以外の行為が禁止されるという習慣がありました。現代ではその厳しさは少し和らいでいるようですが、今でも産後の妊婦は何もしないのが当たり前と考えている人もいると言われています。

このような妊娠・出産に関する文化や考え方の違いについては、以下の記事で解説しております。ぜひご活用ください。

出産後の問題

そもそも母国ではない国で子どもを産み育てることは非常に負担のかかることです。言語が自由に通じない、文化・制度が違う、などの問題に加え、周囲に母国を同じくする知り合いなどがいないといった問題を抱える傾向にあります。さらに、パートナーが子どもを認知しなかったり、連絡が急にとれなくなったりしてしまうケースもあり、孤立状態に陥りやすい特徴があるとも言われています。

周囲の人が、外国人の妊婦さんを支援するWebサイトや団体などを教えることも重要な支援のひとつでしょう。

【補足】技能実習・特定技能に特有の状況

技能実習・特定技能の在留資格で日本で働いている外国人の中には、妊娠したことが会社に知られると、解雇されると思っている人も少なくありません。技能実習や特定技能の制度上は、妊娠・出産によって外国人の労働者が不利益を被るようなことを雇用者がおこなうことは禁止されています。
しかし、実態が不明であることや噂が先回りすることなどにより、妊娠が発覚すると解雇されると考えてしまいやすいのが現状なのです。

また、母国で大きな借金を抱えて日本に来ている場合も多くあり、出来るだけ長く働くため、そして解雇されないために、妊娠したことを会社の人に明かさない人も多いのです。さらに、母国にいる家族に対しても、心配をかけたくないという理由で相談しない人もいます。

以上の事情の積み重ねの結果として、誰にも相談できずに孤立出産となりやすく、さらに場合によっては生まれたばかりの子どもを死なせてしまうケースもあり、問題視されています。

外国人の妊婦さんへの支援制度

日本人の妊婦さんが受けられる出産に関する支援について、外国人の妊婦さんが受けられるかどうかを以下の表に記載しました。

母子健康手帳交付あらゆる人が交付を受けられます。(在留資格がない非正規滞在者でも交付されます)
入院助産制度日本人と同様の人が対象となります。
出産育児一時金     日本人と同様、妊娠4か月以上で健康保険に加入していれば受けられます。国民健康保険の場合、在留資格が1年以上、または「今後1年以上滞在することが、市区町村に許可されている」が条件です。

基本的に、健康保険に加入していれば、外国籍であっても日本人と同様の支援が得られます。日本の出産への支援の制度について知識が少ない場合もありますので、周囲の人が外国人住民のための日本の子育てチャートなどの日本の制度について説明した資料を渡すなどして支援することが重要です。

外国人の妊婦さんを支援しているWebサイト・団体

以下に、外国人の妊婦さんを支援している団体や、外国人の妊婦さんにとって役立つ情報が掲載されているWebサイトをまとめました。

団体名Webサイト・ツール・サービス名
出入国在留管理庁外国人生活支援ポータルサイト「出産・子育て・教育」「生活・就労ガイドブック」(15言語)
多言語医療研究会rasc「ママと赤ちゃんのサポートシリーズ」(18言語)
こども家庭庁健やか親子21「母子健康手帳・リーフレット」(10言語)
公益社団法人 日本助産師会日本で暮らす外国からきた母子や家族への支援
かながわ国際交流財団外国人住民のための子育て支援サイト「外国人住民のための子育てチャート」(10言語)             
特定非営利活動法人きずなメール・プロジェクトきずなメール:妊娠週数やお子さんの月齢に応じた情報がLINEやメールで届くサービス
きずなメール やさしい日本語版
Maternity Kizunamail
NPO法人Mother’s Tree JapanNPO法人Mother’s Tree JapanのWebサイト
・付き添いサービス
・LINE相談
・各種ツール(指差しボードなど)
日本で暮らす外国にルーツを持つ子どものEarly Childhood Development推進研究会日本で暮らす外国にルーツを持つ子ども・子育て支援サイト


外国人の妊婦さんに医療機関が支援できること

日本に住む外国人の数が増加していることから、今後医療機関で外国人の妊婦さんを受入れる可能性も増えていきます。

しかし、外国人にとって、言語や出産に関する文化・風習・制度が異なる国で子どもを産むことは様々な困難があります。特に、中期間滞在するような妊婦さんは、孤立出産となる可能性が少なくありません。そのため、外国人の妊婦さんが安心して誰かに相談できる環境や、正しい知識を手に入れられる状況を作ることが重要です。

また、医療機関においては、医療通訳などの言語ツールを使用するほか、本記事で紹介したような様々なツールを紹介することも有効でしょう。


産科において、外国人患者さんを円滑かつ安全に受入れるためのポイントをまとめた資料は以下のリンクからダウンロードいただけます。


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著者情報

多言語医療ジャーナルPORT(ポルト)編集部

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