外国人患者の看護|コミュニケーションに役立つツールや対応手順を解説!

  • 2023.08.16

    外国人患者

アイキャッチ「外国人患者 看護」

外国人患者さんの看護は、言葉の違いや文化・価値観の違いなどから対応の難しさを感じる医療従事者の方も少なくないでしょう。
そこで本記事では、外国人患者さんの看護において、持っておきたい心構えや、役立つツール、ノウハウをまとめて解説します。

外国人患者さんを看護する機会が増加中

訪日外国人数や在住の外国人数の増加が報じられている中、医療機関において外国人患者さんを受入れる機会も増えているのではないでしょうか。

外国人患者さんを受入れる際には、言葉の違いや文化の違いから、場合によってはいくつかの困難が生じる可能性があります。看護師は病気や怪我を治療するだけではなく、特に、患者に対して全人的なアプローチを通してケアをおこなうことが求められる職種です。そのため外国人患者さんの価値観や考え方に寄り添って業務をおこなうことが多く、文化・価値観の違いから戸惑う場面も多いでしょう。

とはいえ、多忙な中で、多数いる患者さんの一部である外国人患者さんの対応のために、外国の文化・慣習について調べ、対応方法をじっくり考える時間を捻出することも難しいものです。また、外国人患者対応に関する情報をまとめた資料や、ノウハウを学べる機会が多くないといった問題もあります。

そこで、本記事では、外国人患者さんを看護する際のコミュニケーションに役立つツールや、外国人患者さんの対応の手順について解説します。

外国人患者さんを看護する際に生じる言語の壁の問題

外国人患者さんの対応をする場合に、一番難しいのは言語が分からないことでしょう。言葉が通じない、意思疎通が難しいということは様々な不安を生みます。 

例えば、看護師の仕事の一つに、患者さんが自分の病気や治療方法をどのように受け入れているのか話を聞いたり様子を伺ったりして情報を集め、医者やコメディカルの方に患者さんの状況を伝えるということがあります。
その際に、患者がどう受入れているかという感情的な内容は、繊細なニュアンスを含むものであり、言語的サポートがなければ理解するのは難しいのではないでしょうか。

また、外国人患者さんとコミュニケーションを取る際に、宗教・文化の観点から配慮してほしいことを聞き出すことも難しいです。患者さんによっては配慮してほしいことがあったとしても気を使って「大丈夫」と言う可能性もありますし、国によっては差別・偏見などがあるため、文化や宗教などについて聞かれること自体に抵抗感がある方もいます。

言語が通じないことにより、文化や宗教などの違いを超えてコミュニケーションをおこなうことが難しくなります。

外国人患者さんの看護にあたる際に心がけたいこと

外国人患者さんは、言語や文化・習慣などさまざまな点で日本人患者と異なるため、通常に比べて「安全レベルが下がる」あるいは「円滑さが失われる」ということが起こりがちです。
しかし、そのために外国人患者さんに対して特別な対応をする必要はありません。外国人患者さんだから「普段より手厚い対応をプラスする」のではなく、「マイナスになりがちなものを通常と同じに保つ」という意識で対応することが重要です。

また、外国人患者さんから個人的な事情を聞き出す際に注意すると良いのは、差別的な意図はないと伝えることです。世界では差別意識のある人がいることが当たり前の国もあります。さらに、医療機関が細やかな気遣いをもって患者対応をすることが当たり前ではなく、医療従事者がそれほど信頼されていない国もあります。

その中で、いきなり宗教や家族のことなど個人的なことを聞かれると、警戒されてしまう可能性もあります。外国人患者さんの個人的な情報を聞く際は、必ず看護を円滑におこなうために聞かせてほしいと一言断るとよいでしょう。

外国人患者さんとの言語の違いを乗り越えるための4つの方法

それでは、言語の違いを乗り越えるためにどのような方法があるでしょうか。本記事では以下の4つの方法を解説していきます。
1. やさしい日本語
2. 機械翻訳
3. 医療通訳
4. 指さしツール

1. やさしい日本語

令和3年度の出入国在留管理庁の「在留外国人に対する基礎調査」によれば、在留外国人の80%以上が日本語で日常生活に困らないレベルで会話できます。外国人といっても、日本に住んでいる外国人の場合、全く日本語を話せない人は少数であるということがわかります。

そこで、日本語をある程度話す外国人の方と、日本語で意思疎通をおこなうために有効であるとして注目されているのが「やさしい日本語」です。「やさしい日本語」を使うことで一定程度日本語を話せる外国人患者さんとのコミュニケーションがスムーズになるのはもちろん、通訳者や翻訳ツールなどの誤訳を防ぐ効果もあり、近年医療現場でも活用されています。

やさしい日本語の例をいくつか紹介します。

◆一文を短くする・文章を区切る(「です」・「ます」で終える) 「血圧を測らせていただくのでこちらの椅子に腰かけて頂けますか 」 ➡ 「血圧を測ります。椅子に座ってください」
◆尊敬語・謙譲語は避けて丁寧語を用いる「ご記入ください」➡「書いてください」 
◆漢語よりも和語を使う 「今、使用している市販薬はありますか」➡「今、何か薬を飲んでいますか」
(参考:「医療現場への「やさしい日本語」導入・普及事業」やさしい日本語リーフレット

順天堂大学は2022年より、東京都「大学研究者による事業提案制度」において採択された「医療現場への『やさしい日本語』導入・普及事業」を実施しており、医療現場における「やさしい日本語」の活用性について研究・普及を進めています。

具体的には、医療機関のための「やさしい日本語」研修の開催や、動画資料を公開しています。当事業の詳細は医療×「やさしい日本語」研究会からご覧いただけます。

また、「やさしい日本語」導入・普及事業をおこなっている「医療×『やさしい日本語』研究会」では、動画教材を公開しています。「やさしい日本語」に言い換えるコツや、医療現場で使えるフレーズが紹介されています。

2. 機械翻訳

人工知能技術の発展やスマートフォンの普及などによって、時間や場所を選ばず翻訳ツールを使用できるようになりました。医療機関では、翻訳専用の機器を使用したり、患者が手持ちのスマートフォンから翻訳ツールを開いてコミュニケーションを円滑にするために使用したりすることが増えているでしょう。

機械翻訳は、様々な言語に対応していることや、即座に気軽に使用できることが大きなメリットです。技術の発展によって、簡単な会話であればある程度翻訳することができるようになっており、受付や会計の際の簡単なコミュニケーションでは活躍します。

しかし、機械翻訳の使用には注意点もあります。必ずしも発話者の意図通りに翻訳されるわけではなく、文脈によっては不謹慎な内容になったり、相手の気分を害してしまう可能性があります。また、診察などの医療用語が用いられる場面では、十分に訳せない場合も多くあり、誤訳があれば患者の身体の安全に関わる問題に発展することもあります。
厚生労働省の「外国人患者の受入れのための医療機関向けマニュアル」では、機械翻訳の利用は受付や院内の案内などの簡単な会話の場面に限るなど、使用場面を制限して注意することを推奨しています。

機械翻訳の医療現場における活用法や注意点については以下の記事で解説しております。ぜひご活用ください。

>>>「医療通訳と機械翻訳の活用|注意点や使い分けのコツを解説!」を読む


3. 医療通訳

医療通訳とは、語学力や通訳技術に加え医療に関する様々な知識を学んでいる医療専門の通訳者に依頼して通訳をしてもらうことです。難易度の高い医療用語などでも通訳することができ、誤訳などによるリスクを極力抑えることができます。
厚生労働省の「外国人患者の受入れのための医療機関向けマニュアル」では、円滑な医療の提供という理由だけではなく、医療安全の観点から医療通訳を使用することを推奨しています。

医療通訳には、大きく分けて医療通訳者に現地に来てもらって対面で通訳する方法と、遠隔で通訳する方法があります。遠隔の医療通訳というとイメージがわかない方もいらっしゃるかもしれません。
遠隔で通訳をおこなう場合の多くは、電話回線やインターネット回線を用いて遠方にいる通訳者と医療機関をつなぎ、通訳をおこないます。時間や場所に関係なくどこでも利用でき、なおかつ対面での通訳よりも費用が安く、質で劣ることも少ないという特徴から現在注目されています。

4. 指さしツール

そのほかに外国人患者さんとのコミュニケーションを円滑にするものとして、「指さしツール」があります。指さしツールは、受付や入院説明の際など定型的な対応の場合に有効です。

しかし、診察や検査結果の説明の際など、コミュニケーションの内容が患者さんごとに変わるような場面では活用できません。また、意思疎通がうまくいかない場面や、指さしツールとして用意していない言語の対応はできません。
そのため、指さしツールは受付や入院時の説明などの決まった内容を確認する際に使用し、もし何か問題が発生した場合は医療通訳を使うようにするなど、他の方法とうまく併用すると良いでしょう。

当社メディフォンでは、受付対応時に使える指さしツールを公開しています。ぜひご活用ください。


>>>「受付用指差しシート」をダウンロードする

また、厚生労働省の補助事業でメディフォンが運営している外国人患者受入れ情報サイト|多言語ツールから公開されている指さしツールの一覧をご確認いただけます。

外国人患者さんの看護の際の多言語対応フロー

上記で紹介したようなツールは、どのような場面でどのように使うのがよいのでしょうか。
外国人患者さんを受入れる際の対応の手順について解説します。

1. 日本語のレベルを確認する

まず重要なのは外国人患者さんの日本語のレベルを確認することです。先ほど日常会話レベルの日本語を話す在留外国人は8割を超えているというデータを紹介しましたが、国籍が外国であっても日本で生まれ育って母国語が日本語であったり、その逆もあったりします。

国籍や出身が外国だから日本語が話せない、と決めつけるのではなく、まずは、どの程度の日本語を話す方なのかを評価すると良いでしょう。

日本語のレベルを確認する方法を示したのが以下の画像です。

日本語能力の評価と言語サポートの選択
①患者さんの日本語能力がどのあたりなのかを評価する
②上の評価に基づいてどんな言語サポートを行うかを判断する


具体的にはまず、一般的な会話によるコミュニケーションと医療に関する物事に関するコミュニケーションの2つの能力を、最初に判断します。
判断方法については、例えば、受付時点で受付担当者が「症状を教えてください。」「この病院は初めてですか。」「健康保険証を持っていますか。」「熱・咳・息切れなどはありませんか。」などの定型質問をおこない、その回答の内容によって評価するというようなルールを決めておくと良いでしょう。

2. 状況に応じてツールを使い分ける

外国人患者さんの日本語レベルを判断したあとは、その判断に応じて使用するツールを使い分けます。

上の図では、日本語能力が十分な方に対しては「やさしい日本語」を利用することになっています。そして、医療の会話について難しい方は、受付など一般的な会話はやさしい日本語で医療に関する会話では通訳を介してという組み合わせ方、一般的な会話も難しい方は原則通訳を利用する、というような利用ルールになっています。

上記の図は一例ですが、このように、①日本語能力の評価をして、②その評価によってどんな言語サポートをおこなうかを判断する、という流れを決めておくことが、患者ごとの日本語能力に合わせた言語サポートをおこなうために重要です。

こうした流れをつくっておくことで、十分な日本語能力があり日本語でのコミュニケーションが可能な患者に通訳を使おうとして、無駄な手間や時間をかけてしまったり、逆に言語サポートが必要な患者をカタコトの日本語で対応して、医療安全上のリスクをとってしまったりというミスマッチを減らすことができます。

ルールの作成・周知を忘れずに!

実際の受け入れ現場で外国人患者の看護の際の多言語対応フローが実効的に運用されるためには、この評価を「いつ」「誰が」「どうやって」するかを具体的に決めておく必要があります。このような具体的なルールを決めることで誰が対応しても毎回同じ方法で評価をおこなうことができます。

評価に基づいて言語サポートを判断したら、最後に、その言語サポートをどのように利用するかも具体的にしておく必要があります。

例えば、
・日本語能力に問題がない人:各現場の担当者がそれぞれやさしい日本語で対応する
・日本語でコミュニケーションをとることが困難な人:受付設置のタブレット端末で翻訳アプリを利用する、自治体が提供している電話医療通訳サービスを利用する
など利用方法を具体的に決めておくことが、ルールに沿った運用がおこなえるかどうかのポイントとなります。

通訳については会話の内容(難易度等)によっても利用すべきツールを使い分ける必要があります。通訳の場面ごとの使いわけルールを設定し、初めての人でも簡単に判断できるようなフローチャートや各ツールのわかりやすい利用マニュアルなどを各現場に準備しておきましょう。

文化の違いから生じる要求への対応事例

外国人患者さんの看護において難しいのは、文化・習慣が背景にある外国人患者さんの要望にどこまで病院として対応するのかを判断することでしょう。対応に正解はなく、医療機関内の事情を踏まえて個別に決めていくことが重要です。

また、外国人はコミュニティ内での口コミの影響力が強い傾向があり、一度、ある患者さんで個別に対応をすると、次に来院する他の患者さんからも全例対応してもらえると思われてしまう可能性もあります。

そのため、個人の判断だけで個別の対応をしてしまうことにはリスクも伴います。可能であれば、診療科全体や国際担当と相談してルール化し、看護師ごとに対応が変わることがないようにし、トラブル防止につなげていくことが望ましいでしょう。

以下に、イスラム教の患者さんが来院することがある医療機関で、イスラム教の患者さんからのよくある要望に対してどのようにルールを作成しておこなったかの例を示しました。

事例①礼拝がしたいと言われた場合

【対応】

特別な礼拝室の設置も検討しましたが、イスラム教の患者さんの数がそこまで多くなく、余っている部屋も予算もないため、礼拝室の設置はしないことになりました。病棟スタッフと相談をし、お祈りがしたいと言われた場合には、個室の患者さんであれば、自前のマットを敷いてお祈りを行ってもらって問題がないとルールを決めました。個室でない場合には、空いている個室がある場合のみ、空き個室を礼拝用の部屋として案内が可能としました。

事例②看護師・医者の全員が女性が良いと言われた場合

【対応】

「家族以外の異性に肌を見せてはいけない」となると、医療の提供が難しい場面があります。そのため、旅行先や病気など臨時の際には容認されることもあるという旨を説明し、患者側に理解を求める方針に決まりました。しかし、厳格に守る人たちもいるため、近隣のすべて女性スタッフで対応ができる医療機関を調べてリスト化し、希望者にはその医療機関を紹介することにしました。



上記では、イスラム教を例にあげましたが、まずは、自院にどんな外国人患者さんが来院する可能性が高いのか(地域にどんな国籍の人たちが多く住んでいるのか・近くの有名観光地にどんな国の観光客が多くきているのか等)、その患者さんの文化や宗教的な背景から特有の要望が発生する可能性が高いのかを確認することから始めてみることおすすめします。

その上で、よくある特有の要望に、診療科や病院としてどのように対応していくかのルールを作成していくと、それに沿った適切な対応ができ、人によって対応がバラバラであることが原因になるトラブルも防止できます。

厚生労働省の「外国人患者の受入れのための医療機関向けマニュアル」の「宗教・習慣上の対応」の項目では、さまざまな宗教の特徴について一覧表なども掲載されています。こちらも参考にしてみてください。

【補足】異文化看護に関する情報の入手方法

各国の文化に関する注意点に関しては、ネット上に様々なものが公開されています。看護に関するものを集めたものでは、日本看護科学学会が出している異文化看護データベースがあります。ただ、医療現場における文化に配慮した具体的な対応方法について記載されているような資料はまだ少なく、情報が集積されていないのが現状です。

各国の文化や習慣・マナーについての資料は、基本的に多数派のデータが記載されたものであり、個々の患者さんにそのまま当てはまるものではありません。民族や出身地方が異なると、特徴や行動が異なる可能性があります。

また、同じ宗教でも宗派や個人の考え方によって厳格さなども大きく異なります。そのため「この国の人はこう」「この宗教の人はこう」と決めつけず、個々の患者さんやご家族から十分に情報を得た上での対応が非常に大切です。

知ることから始める外国人患者さんの看護

外国人患者さんの看護においては、言葉が通じないことや文化・価値観について分からないことが多いため、患者さんを一人の人間として看て、全人的なケアをおこなうことが難しい場合も多いでしょう。お互いに意思疎通が十分にできず、外国人患者さんはもちろん医療従事者の方も不安を抱かれることは少なくありません。

医療従事者・外国人患者の双方が安心して医療サービスを提供・享受できる状態のためには、個々の医療従事者が外国の文化や対応の際の注意点などについて学ぶことに加え、医療機関が組織として取り組む必要があります。しかし、外国人患者受入れ体制の整備を組織として進めることは、経営的な判断も要するため簡単ではありません。

そこで、まずは、外国人患者さんとのコミュニケーションの際に使えるツールや、外国人患者さんの母国の文化・習慣などについて知ることから始めることが現実的で有効でしょう。ぜひ本記事で紹介したツールやウェブサイトをご活用ください。





メディフォンは、遠隔通訳を中心として翻訳や多言語資料の作成など、外国人患者受入れに関する包括的な支援をおこなっております。外国人患者さんのご対応にお困りごとなどありましたら、お気軽にお問い合わせください。

医療通訳対応10万件以上の実績をもち、全国約88,000の医療機関でご利用いただける、医療に特化した多言語通訳・機械翻訳サービス「mediPhone(メディフォン)」のサービス資料は以下からダウンロードできますので、ぜひご活用ください。


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著者情報

多言語医療ジャーナルPORT(ポルト)編集部

メディフォンは2014年1月のサービス開始以来、医療専門の遠隔通訳の事業者として業界をけん引してきました。厚生労働省、医療機関、消防などからのご利用で、現在の累計通訳実績は10万件を超えております。「多言語医療ジャーナルPORT(ポルト)」は、メディフォンがこれまでに培った知識・ノウハウをもとに、多言語医療に携わる方々のための情報を発信するメディアです。

監修者情報・三浦 那美

三浦 那美

看護師として大学病院の呼吸器循環器内科、血液内科、内分泌・膠原病内科の混合病棟にて患者対応業務に従事。その後、看護師問診に注力し、海外赴任向けの予防接種も行っている総合診療のクリニックに転職。これら医療機関で外国人患者の対応も多く経験し、その難しさに触れる。メディフォン株式会社に入社し、現在は経営企画室で看護師としての経験を活かしてコンテンツの監修や企画を担当。