外国人患者さんの手術|注意点と対応のポイントをまとめて解説!

  • 2024.04.30

    外国人患者

外国人患者さんに対して手術の説明や同意を取る場面では、言語の壁が大きな課題になります。
本記事では、海外と日本の医療文化の違いに触れつつ、言語の壁を乗り越えて外国人患者さんの手術を円滑に進めるためのポイントを解説していきます。

外国人患者さんを手術する機会は増える

観光庁資料の発表によれば、コロナ禍以前では訪日外国人数は右肩上がりで増えており、2018年には3000万人を突破しました。一度コロナ禍で落ち込みましたが、日本政府観光局JNTOが発表した情報によると2024年2月の訪日外国人旅行者数は、コロナ禍前の2019年同月の人数を超えて278万8000人を記録しており、急激に回復傾向にあります。

また、在留外国人の数は2012年から2019年まで右肩上がりに増加し、コロナ禍で一度落ち込みました。しかし、2022年以降、新型コロナウイルス感染症の流行の影響が薄れてきたため、増加傾向にあります。2024年3月22日の出入国在留管理庁のプレスリリースによれば、341万992人と前年度比10%以上の成長を記録しています。

訪日・在留外国人の増加により、医療機関に来院する外国人患者さんの数も増加していくと言われています。そのため、外国人患者さんが医療機関に来院し、手術が必要となるケースも増えてくるでしょう。

外国人患者さんを手術する際の注意点と対応方法4つ

外国人患者さんを手術する場合の注意点と対応方法について解説していきます。

①インフォームドコンセントにおける注意点と対応方法

インフォームドコンセントとは、医療者が患者に、病状や治療方法・方針についての説明をおこない、患者がそれらを十分に理解した上で、どのような医療を選択するのか関係者全員で合意を取るプロセスです。特に侵襲性が高く、リスクの高い手術をおこなう場合には、慎重に進める必要があるでしょう。

特に、言語や価値観の異なる外国人患者さんとインフォームドコンセントを進めていくことは難しいものです。そこで、外国人患者さんとインフォームドコンセントをおこなう際に注意すべき点について解説していきます。

医療通訳を利用する

インフォームドコンセントは、医療の専門性が高い用語が用いられることに加え、患者さんの精神的負担が大きい場面です。そのため、医療通訳を利用することが重要です。医療通訳者は医療に特化した専門の教育を受けており、医療用語を正確に訳すだけではなく、細かいニュアンスも含めて通訳することができます。また、患者さんの様子などを見ながら、適切なコミュニケーションの仲介をおこなうことができます。
さらに、医療通訳者は通訳倫理についても教育を受けており、患者さんのプライバシーを守ります。

患者さんと同行の家族・友人や職場の同僚に通訳をお願いしている医療機関の方もいるかもしれません。しかし、同行者が医療用語を理解していなかったり、個人情報が守られないなどのリスクがあります。そのため、第三者である専門の医療通訳を用意する医療機関が増えています。

インフォームドコンセントで医療通訳を利用する際は、通訳者が現地にいて対面で通訳をおこなうことができれば最も望ましいでしょう。しかし、現実には、患者さんのよく理解できる言語で医療の専門性が高い通訳をおこなえる人材が確保できない場合も少なくありません。そのような時に活用したいのが、音声や映像を使った遠隔の医療通訳です。

対面でないと無理なのでは、とお考えの方もいるかもしれません。しかし、遠隔の医療通訳であっても、通訳者のレベルが担保されており、事前に十分な情報提供がおこなえていれば、対面と大きく変わらず円滑なコミュニケーション通訳をおこなうことができます。手術の説明などの難しい場面で通訳を利用する場合は、対面か遠隔かに関わらず、医療通訳者のレベルが高いどうかを確認すること、できるだけ事前情報を通訳者に渡しておくことが重要です。

メディフォンでは、通訳者の雇用にあたって実際の現場さながらの内容での実技試験をおこない、厳しいレベルチェックを通過した通訳者のみ採用しております。また、通訳内容を自社内でチェックし、医療通訳技術向上のための研修をおこなうなど、通訳品質の維持・向上に努めています。実際、インフォームドコンセントの場面のご利用でもご満足のお声をいただいています。


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インフォームドコンセントに関する文化の違いを念頭に入れて対応をおこなう

欧米では、「患者が自分で決定する」という観点に基づいたインフォームドコンセントが根付いて久しい状況であり、日本とは考え方が異なることもあります。特に、アメリカはインフォームドコンセントが生まれた国であり、その特徴が顕著です。以下にアメリカのインフォームドコンセントの特徴をまとめました。

違い①:インフォームドコンセントの際、患者は一人で話を聞く場合が多い

インフォームドコンセントは、患者の「知る権利」「自己決定の権利」「自律の権利」の尊重を原則として考え出されました。

アメリカでは、基本的に「家族が同席していると患者さんが自律して考えられない」という考えから、患者さんは一人で話を聞くのが通例です。そのため、患者さんが望まない限り、ACP(Advance Care Planning)もおこなわれません。

違い②:患者側が多くの質問をする

英語圏では、医師は医療・健康の専門的な情報を提供するアドバイザーだと見なされている場合が多くあります。診察は「Shared Decision Making」という、医師と患者が一緒に考えて意思決定する形が一般的に理想とされており、インフォームドコンセントでフランクに医師と患者が対話を重ねることも少なくありません。

そのため、日本で医師が「来週手術しましょう」と言った際に、多くの患者さんは「本当に手術が必要なのか」、「来週ではなく来月では問題があるのか」などと質問してくることがあります。

違い③:医師が推奨の選択肢を提示する

アメリカなどでは、患者の意思決定を尊重するため、まず患者が「何を大事にしたいか」を聞き出します。そのうえで、医師は患者の価値観に応じた情報を提供し、最終的には推奨する治療方法を提示することまでします。一方、日本では治療方法ごとのメリット・デメリットやリスクについて説明した後は、相手の判断に委ねる形式を取る場合も少なくありません。そのような患者に判断の多くを委ねる方法は、アメリカの方法とは大きく異なります。

以上を踏まえると、アメリカなどの国では、インフォームドコンセントに時間をかけて患者が自分で自律して意思決定できるように医療者が対応する場合が多いと分かります。

しかし、こうしたやり方は時間がかかります。日本の医療では、一人の患者さんに多くの時間をかけられない場合もあるでしょう。その際は、時間が迫っていると伝えて、今すぐ話す必要のある質問がなにかを聞き、急を要さない質問については次の機会で答えると伝えるなどするとよいでしょう。

以上はアメリカでのインフォームドコンセントに関する文化です。中国や東南アジアでは大きく事情が異なります。例えば、男性優位の考え方が強い国などでは、妻に対しての治療方針については夫の同意が必要と考える人もいます。
インフォームドコンセントをどの程度丁寧におこなうかは医療機関や医師によってばらつきがあるでしょう。そのため、一概に外国人患者さんの出身国から判断するのではなく、どのようなインフォームドコンセントを望んでいるのかについて、聞き出しながら進めていくことが理想的です。

書類を翻訳する

口頭の説明だけでインフォームドコンセントをおこなう場合、患者側は自らの病状・治療方法・治療方法ごとのリスクなどのすべての情報を記憶し、理解することは難しいでしょう。そのため、侵襲性の高い手術の説明と同意を得る場などでは、資料を用意することが求められます。また、同意書への署名が必要な際などは、同意書が母語になっていないと読めない場合があり、円滑に進まない恐れがあります。
そのため、外国人患者さんにインフォームドコンセントをおこなう前は、重要な書類については患者さんの母語に翻訳することが好ましいでしょう。

②手術の際や手術前後の注意点と対応方法

外国人患者さんの文化・習慣・宗教によっては、配慮を要する状況に遭遇することがあります。以下に、文化・習慣・宗教などを背景に、日本人と異なる配慮を要する可能性のある事例を取り上げました。

外国人患者さんは痛み止めを多く求める傾向にあることを想定する

外国人患者さんの中には、痛みに対して大きな声を上げて反応する方もいます。もちろん、日本人の患者さんでも痛みに弱い方もいますが、外国人患者さんは痛みを直接表現する傾向が強い可能性があります。

OECD諸国の医療用麻薬の消費量を以下のグラフに表しました。

引用:国際麻薬統制委員会INCB|医療用麻薬消費量

日本と韓国は、モルヒネの使用量が欧米諸国と比較して少ない傾向にあることがわかります。日本では多少の痛みは我慢するものと考える人が多いですが、海外の人の中には、少しでも痛みがあったら痛み止めを希望する場合も少なくありません。

痛みの許容度は個人差もあるので、医療者としては、外国人患者さんの場合は痛み止めを日本人より多く希望する可能性を想定に入れて対応するとよいでしょう。
なお、座薬についても外国人患者さんの中には好まない方も少なくないため、もし患者さんから要望があった場合には座薬以外の接種方法の薬を処方するとよいでしょう。

宗教的事情にできる範囲で配慮する

また、宗教的事情にも配慮が望ましい場合があります。例えば、イスラム教では、女性は女性以外に肌を見せることが好ましくないとされており、医師や看護師に女性を希望される場合があります。また、ヒンズー教では、長い布を身にまとうことが多いのですが、診察時の衣服の着脱や外傷の治療の際に衣服の裁断を拒否する人もいます。
さらに、厳格なムスリムの方の中には、アルコール系を使用することを避ける人もいます。そのため、アルコールによる消毒などが禁忌にあたる人もいます。

こうした要望全てに対して医療機関が対応するのは難しいでしょう。そのため、出来る限りで対応しながら、対応できない要望があり、特段緊急ではない場合は事前に丁寧に説明して了承を得るなどするとよいでしょう。
また、宗教については、信仰の深さは個人によって大きく異なるため、患者さん個人に向き合って要望を聞き取る姿勢が重要になります。

③入院の際の注意点と対応方法

患者さんの身体に負担のかかる手術をおこなう場合は、手術前後に患者さんに入院してもらうケースも少なくないでしょう。入院とは、一日中院内で生活をすることであり、外国人患者さんによっては文化の違いにより大きなストレスを抱えることになる可能性もあります。

④手術料金の回収の注意点と対応方法

手術の種類によっては、医療費が高額になる場合も少なくないでしょう。外国人患者さんの中には、観光で来日しているため日本の公的保険に入っておらず、さらに海外旅行保険にも入っていないような人もいます。そのため、費用が高額になり、医療費未払いになるケースもあります
急ぎではない手術の場合、帰国してから母国で手術を受けてもらうほうが良い場合もあります。手術の緊急度を踏まえて、患者さんと相談しながら手術を実施する場所を考えると良いでしょう。

外国人患者さんの医療費未払いについては、事前に費用を提示するなど対策を施すことでリスクを大きく減らすことが先進機関の事例で分かっています。


外国人患者さんの医療費の未払いを防ぐ対策については以下の記事で詳しく解説いたしました。ぜひご活用ください。

外国人患者さんの手術の前に役立つツール

これまで外国人患者さんの手術の際に、注意するべきポイントや対応方法について解説しました。最後に、対応をおこなう際などに活用できる資料を紹介します。

多言語版の資料

本記事で、多言語の資料を用意すると良いと解説しましたが、資料を正確に翻訳してもらうには時間や費用がかかるため、難しい医療機関も多いかもしれません。厚生労働省は外国人向け多言語説明資料 一覧を公開しており、問診表や検査の説明書などの多言語版を利用することができます。ぜひご活用ください。

メディフォンでは、遠隔の医療通訳以外に、翻訳も承っております。


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各国の文化についての資料

外国人患者さん個人によって要望は異なるため、患者さんの国籍だけで判断するのではなく患者さんと直接コミュニケーションを取ることが重要だと解説してきました。とはいえ、異なる宗教や文化における医療に関連する規則・習慣について知っておくことで、事前の準備や心がまえができます。

厚生労働省が公開している「外国人患者の受入れのための医療機関向けマニュアル」の76ページでは、各宗教別に医療に関して留意しておくと良い点をまとめています。食事、薬、中絶、臓器提供、遺体の取り扱いについてまとめられていますので、ぜひご活用ください。

手術の説明時に医療通訳を活用し、安心・安全に外国人患者さんの手術を

本記事では、外国人の患者さんを手術するとなった場合に円滑に進まない可能性のある事例を取り上げ、その対応方法を解説し、また役立つ資料を紹介しました。
外国人患者さんを受け入れる機会が増えると想定される中、言語・文化の異なる外国人患者さんを手術する際に、同意が円滑に進まないことや手術後に問題が発生する可能性に不安を抱かれる方もいるでしょう。また、インフォームドコンセントに関する文化の違いで、戸惑いを感じる方もいるかもしれません。

しかし、外国人患者さんの出身国の文化を知ることや、質の高い医療通訳者に通訳を依頼してインフォームドコンセントを丁寧におこなうことができれば、リスクを大幅に減らすことができるでしょう




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参考文献

ローラ・スペッカー・サリバン,  2015,  『こころの未来』「研究報告 日本のインフォームド・コンセントと患者・家族のための支援」, 京都大学こころの未来研究センター
http://kokoro.kyoto-u.ac.jp/jp/kokoronomirai/kokoro_vol14_p40_p41.pdf 

m3.com, 2019, 「告知やICの使われ方「海外との決定的な違い」【時流◆告知への苦手意識を減らせる話】」, https://www.m3.com/clinical/open/news/655492

m3.com, 2021, 「Dr.レニックの英語診療シリーズ「外国人患者とのよくある問題」, https://www.m3.com/news/open/iryoishin/959266

一般社団法人 日本臨床救急医学会, 2018, 「訪日外国人医療 ver.1.1」, http://2020ac.com/documents/ac/04/2/6/AC2020_JSEM_foreigner,ver1.1_20191017.pdf

著者情報

多言語医療ジャーナルPORT(ポルト)編集部

メディフォンは2014年1月のサービス開始以来、医療専門の遠隔通訳の事業者として業界をけん引してきました。厚生労働省、医療機関、消防などからのご利用で、現在の累計通訳実績は10万件を超えております。「多言語医療ジャーナルPORT(ポルト)」は、メディフォンがこれまでに培った知識・ノウハウをもとに、多言語医療に携わる方々のための情報を発信するメディアです。

監修者情報・友久 甲子

友久 甲子

メディフォンの遠隔医療通訳サービスや外国人患者受入れに関する研修事業の立ち上げを経験。外国人患者受入れに関する研修・セミナーの運営や講義を数多く担当し、医療機関の外国人患者受入れ体制整備コンサルティングや外国人患者受入れマニュアルの作成支援等にも数多くの実績を有する。令和元年度・令和2年度厚生労働省「外国人患者受入れ医療コーディネーター養成研修事業」研修カリキュラムテキスト作成担当・研修講師。令和4年度厚生労働省「医療費の不払い等の経歴がある訪日外国人の情報の管理等に関する仕組みの運用支援事業」有識者委員。