医療通訳とは?|種類・活用事例・利用方法をまとめて解説

  • 2023.09.08

    医療通訳

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医療通訳は、言語や文化などが異なる、日本語を話さない患者さんと医療従事者の間のコミュニケーションを円滑にする役割を担っています。

日本にいる外国人が増加する中、重要性が増している医療通訳の活用事例や利用方法を一気に解説します。

医療通訳とは?

医療通訳とは、日本語に不自由な外国人が母語で医療サービスを受けられるように、問診から手術前の説明、入院や服薬指導まであらゆる場面で言語面のサポートをおこなうことです。

厚生労働省の資料では、医療通訳者の役割は以下のように定義されています。

・医療、保健分野における必要な関連知識や語彙、能力と技能を持ち、診療等の場面において、 言葉の媒介者として、話し手の意図を正確に理解して、聞き手にその内容を忠実に伝え、対話者間の効果的なコミュニケーションを可能にする。

・言語的、文化的、社会的に異なる医療従事者と患者等の間に入り、両者の相互理解を支援するため、必要に応じて専門家と患者の間の文化的橋渡しを行う。


引用)厚生労働省 医療通訳

文化・習慣などによって医療機関の治療方法や入院の際に必要な支援が変化します。そのため、ただ話し手の発言を正確に伝えるだけではなく、文化・習慣などに配慮して医療者・患者さんの間のコミュニケーションを仲介することが重要なのです。

専門の医療通訳が必要な理由とは?

今まで医療通訳は家族・友人などの手によっておこなわれてきましたが、厚生労働省は、基本的に医療通訳者としての教育を受けた通訳者による通訳を推奨しています。他の方法でおこなわれる医療通訳の注意点について説明しながら、専門の医療通訳者による通訳が必要とされる理由を解説していきます。

家族・友人・職員通訳のリスク

厚生労働省の、「外国人患者受入れのための医療機関向けマニュアル」では、医療知識の不足や、通訳者としての倫理規定についての理解の不足の可能性、また責任が重く負担となるなどの理由から、家族・友人・職員による通訳を推奨していません。
専門の医療通訳者の多くは、医療知識はもちろん通訳倫理や通訳技術について学んでいます。医療の場面で通訳を依頼する場合は専門の医療通訳者に依頼すると良いでしょう。

家族・友人・職員通訳のリスクの詳細については以下の記事で解説しております。ぜひご活用ください。


>>>「医療通訳の今後は?従来の課題から現在の取り組みまでをまとめて解説」


また、医療通訳者の資格や育成方法については、以下の記事で解説しております。ぜひご活用ください。


>>>「医療通訳の資格とは?医療通訳者に必要なスキル4つと育成方法を解説!」


機械翻訳のリスク

最近の技術の発達に伴い精度が向上したことや新型コロナウイルス感染症の影響などから、機械翻訳を含む翻訳ツールが医療の現場で用いられることが増えてきているでしょう。

しかし、機械翻訳では医療の専門用語などを正確に訳出することは難しいほか、上手く伝わっているかを確認する方法がなく、すれ違ったまま会話を続けてしまう可能性もあります。機械翻訳は、受付や会計の際などの簡単なコミュニケーションの場では活用できますが、診察や検査結果の説明、トラブルが生じた際などでは対応できません。

厚生労働省では機械翻訳の利用は一般的な場面に限定し、それ以外の高度で複雑な場面では医療通訳を利用すると言った使い分けを、医療安全の観点から推奨しています。

機械翻訳と通訳者による通訳の使い分けや機械翻訳の特徴については、ぜひ以下の記事をご活用ください。


>>>「医療通訳と機械翻訳の活用|注意点や使い分けのコツを解説!」


【補足】海外では医療通訳の提供が義務付けられているところも

アメリカやオーストラリアなどでは、一部の医療機関に対して、その国の公用語が不自由な患者さんが来院した際に医療通訳サービスを提供することを義務付けています
そのため、医療通訳の需要が多く、時間や手間のかかる対面の医療通訳以外に、電話やインターネットを利用した遠隔の医療通訳システムが広く普及しています。


海外の医療通訳事情について、以下の記事で解説しております。ぜひご活用ください。


>>>「海外の医療通訳事情は?国際比較から考える日本の医療通訳の今後」

また、遠隔の通訳サービスの特徴について、以下の記事で解説しております。ぜひご活用ください。


>>>「遠隔通訳とは?利用前に知っておきたいメリットと注意点を解説!」


医療通訳の活用事例

専門の医療通訳者がコミュニケーションの仲介に入ることが求められる、よくある事例をもとに、医療通訳が必要な場面や医療通訳が解決できる問題について解説していきます。

よくある事例① 

アジア系の患者さんの方で、普段の日常会話の意思疎通は日本語でなんとかできているため、医療通訳の用意はせず、医師の会話に対してもうんうんと頷いている様子だったので問題ないと思っていた。しかし、再診時に前回処方した薬を飲んでこなかった。
どうして飲んでこないのかと確認したら、前回の受診では医師の言っていることがほとんど分からず、なんの薬かも分からなかったので怖くて飲めなかった、ということがわかった。また、「分からないと言ったらいやな顔をされそうだと思い、言えなかった」という。
医療通訳を入れて再度説明して、薬を継続服用してもらうことができるようになった。

日常会話では発話内容を何となく理解できれば会話できますが、医療の場面では正確に理解しないといけません。病名、服薬の仕方、避けるべき食べ物などの医者の説明を正しく理解しなかった場合、患者さんの身体に大きな悪影響を及ぼしてしまうことがあります
在住の外国人の多くが日本語を話せますが、一般的な場面で日本語で日常会話をしているから問題ない、と判断するのではなく、医療の場面においても日本語でコミュニケーションが可能かを判断する必要があります。

また、異国の地にいる緊張感や、医療者側が急いでいる素振りなどを見て、自分が分からないことを伝えられず、何となくわかっているふりをしてしまう方も多いです。さらに、自分の日本語力に自信がないために、自信の症状についてうまく伝えられず、あきらめてしまう方もいます。
そこで、母語でコミュニケーションが取れる医療通訳者がいれば、医師の説明を正しく理解できるだけではなく、安心して自分の症状について話せるようになるでしょう。

よくある事例②

ベトナム語を話す患者さんに対して、検査結果をもとに病気の説明とこれからの治療方針について医療通訳者を入れて説明をしていた。重い病気であったため、患者さんがどのようにその病気を受け入れているのか把握したいと思ったが、ベトナム語やベトナムの文化が分からないため、患者さんの言葉に込められたニュアンスや感情が一切分からなかった。
しかし、医療通訳者が、「〇〇さんはショックを受けている様子で〇〇と聞いています」と患者さんの感情や状況について注釈を加えた通訳をしてくれた。そのため、言葉を訳しただけではわからない患者さんの感情や状態を把握し、適切な対応ができた。

例えば、機械翻訳などの翻訳ツールでは、言葉を言葉通りに訳すことしかできません。そのため、患者さんが抱いている感情や言外に込められた意味を見落としてしまいがちです。

上記の事例では病気の説明についてでしたが、他にもトラブルの際には、機械翻訳だと皮肉などの言外に込められた怒りの感情を訳出できないために、適切に対応できずにさらに相手の感情を損ねる対応になってしまう場合もあります。表現に込められたその言語の話者にしか分からない意味についても、訓練を受けた通訳者であれば配慮して通訳できます。

医療通訳を利用する方法3つ

これまで、専門の医療通訳の重要性と活用事例について解説してきました。
次に、医療通訳を利用する方法について解説していきます。

1. 医療通訳者を雇用する

一つ目の方法は、医療通訳者を雇用することです。医療通訳者を雇用できれば、院内の事情に通じた通訳者が、日中の場合は柔軟に対応できるでしょう。

しかし、多くの医療機関では、医療通訳者を雇用することは現実的な選択肢ではないかもしれません。なぜなら、医療通訳という専門的なスキルを持った人材を、しかも複数言語にわたって雇用するのは都市部以外では困難を極める上、例え人材がいたとしても費用面などから雇用は難しいからです。
雇用する以外には、医療通訳者の派遣を依頼する、あるいは遠隔の医療通訳サービスを利用するなどの選択肢があります。

2. 医療通訳者の派遣を依頼する

医療通訳の派遣については、一部のNPO等で、2000年以前から取り組みが開始され、2000年以降はこうした地道な活動が自治体と連携することで普及しました。現在、様々な自治体で通訳者を派遣するサービスが提供されています。
お近くの自治体のホームページなどから確認できます。

医療通訳者の派遣については、以下の記事で詳しく解説しております。ぜひご活用ください。


>>>「派遣の医療通訳とは?メリットと利用の際の注意点を解説!」


3. 遠隔医療通訳サービスを利用する

しかし、医療通訳者の派遣サービスは事前予約が必要な場合が多いため、基本的に夜間や急な外国人患者さんの来院には対応できません。また、都市部以外では医療通訳者の数に限りがあるため、多くの時間を拘束する医療通訳者の派遣では、全ての通訳需要に応えることが難しいと言われています。

そこで注目され始めたのが遠隔医療通訳サービスです。遠隔医療通訳サービスは、電話回線あるいはインターネット回線を用いて、遠隔で医療通訳を提供するサービスです。いつ、どのような場所からでも依頼できる点が特徴です。

また、遠隔医療通訳サービスについて、以下の記事で詳しく解説しております。ぜひご活用ください。


>>>「遠隔通訳とは?利用前に知っておきたいメリットと注意点を解説!」

また、派遣、遠隔の医療通訳サービスの相場や比較検討する際のポイントについては、以下の記事で解説しております。ぜひご活用ください。


>>>「医療通訳にかかる費用とは?相場や費用節約のコツを解説!」


医療通訳者と協働のポイント

医療通訳者と協働する際のポイントは様々あります。一つは、医療通訳者が訳しやすい話し方で話すことです。
通訳者が十分な能力をもっていたとしても、医療者が早口で話す・難解な専門用語を羅列するなどすると通訳が困難になり、誤訳を引き起こす可能性があります。
医療者と医療通訳者は、外国人患者さんへの安心・安全な医療の提供のためにともに協力し合うチームです。この点を意識して、通訳者が通訳しやすいように以下のような点に気を付けて話すとよいでしょう。
・はっきり、早口にならないように話す。
・一度に話す長さが長くなりすぎないようにする。
・専門用語や略語はできるだけ避け、一般の人にも理解しやすい平易な言葉を使う。
・主語や語尾の省略、曖昧な表現を避け、何を伝えたい(聞きたい)のかが明確な文章で話す。


医療通訳者との協働のコツをさらに知りたい方は、こちらをご活用ください。


>>>「医療関係者必見!医療通訳者と協働するための6つのポイントを解説」


医療通訳の今後

現在、在留外国人、訪日外国人の双方で増加が予想されています。そのため、医療通訳の需要もますます高まると予想されています
自治体、非営利団体、事業者など様々な関係者が医療通訳サービスを提供しています。院内の需要に合わせて適切なサービスを選択するとよいでしょう。

医療通訳の今後については、以下の記事で詳しく解説しております。ぜひご活用ください。


>>>「医療通訳の今後は?従来の課題から現在の取り組みまでをまとめて解説」


医療通訳が必要な場面で正しく使えるような準備を

これまで、医療通訳が必要な場面から活用事例、そして医療通訳の利用方法や協働のポイントについて解説してきました。
外国人数の増加が見込まれる中、急に外国人患者さんが来院した場合に対応できるように準備しておくことが望ましいでしょう。その際、本記事で解説した内容について理解しておくことで、スムーズかつ安心して外国人患者さんの受入れにつながることを願っています。


医療通訳対応10万件以上の実績をもち、全国約88,000の医療機関でご利用いただける、医療に特化した多言語通訳・機械翻訳サービス「mediPhone(メディフォン)」のサービス資料は以下からダウンロードできますので、ぜひご活用ください。


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著者情報

多言語医療ジャーナルPORT(ポルト)編集部

メディフォンは2014年1月のサービス開始以来、医療専門の遠隔通訳の事業者として業界をけん引してきました。厚生労働省、医療機関、消防などからのご利用で、現在の累計通訳実績は10万件を超えております。「多言語医療ジャーナルPORT(ポルト)」は、メディフォンがこれまでに培った知識・ノウハウをもとに、多言語医療に携わる方々のための情報を発信するメディアです。

監修者情報・友久 甲子

友久 甲子

メディフォンの遠隔医療通訳サービスや外国人患者受入れに関する研修事業の立ち上げを経験。外国人患者受入れに関する研修・セミナーの運営や講義を数多く担当し、医療機関の外国人患者受入れ体制整備コンサルティングや外国人患者受入れマニュアルの作成支援等にも数多くの実績を有する。令和元年度・令和2年度厚生労働省「外国人患者受入れ医療コーディネーター養成研修事業」研修カリキュラムテキスト作成担当・研修講師。令和4年度厚生労働省「医療費の不払い等の経歴がある訪日外国人の情報の管理等に関する仕組みの運用支援事業」有識者委員。